July 29, 2022

メリトクラシーの罠?

 男性と同じくらい難関大学に入りたいと思っている場合でも、女性は浪人しにくいよという論文を書きました(まだワーキングペーパーで、絶賛査読中)。この論文は色々時間がかかると思うので、まず公開だけしておきます(英文校正費用を負担してくださった東大社研CSRDAに感謝いたします)。

https://csrdadps.com/paper/31

私がPIをつとめているチームで、今月末までに進学校の高校生を対象に40件ほどのインタビューを実施、うち25人くらいの音源を聴いています。上の論文で議論していることと関係する一方で、高校生の語りからわかる進路選択の男女差は、少しばかり違って見えてきました。

男性に比べて、女性は将来つきたい職業や、大学で学びたいことをまず考える傾向にあります(これは他の国でも、似たようなことが言われています)。日本の大学入試は学部ごとに行われるので、すでにやりたいことが決まっている人にとっては、同じことが学べるなら現役で受かる大学を優先、という水路づけが行われやすいのではないかと考えています。下記とも関連しますが、国公立大学は実質一発勝負で難関大学に進学するためには浪人することが珍しくない構造なのも、やりたいことが決まっている人にとって、わざわざ浪人してまで難関大学に行くメリットを減じさせていると考えられます。

これに対して、男性の方が将来の展望がまだ明確に決まっていない人が多く、その場合に選択肢を残すために(いわゆる「潰しが効く」というロジックを使って)、まず偏差値の高い大学を志望してから、何をやりたいのかを後から考える(けどそれは曖昧)、そんな流れで進路希望が形成される傾向が強いです。東大に毎年何十人も出すような進学校になると、偏差値で見合う大学が東大になるので、ひとまず東大を志望して、そこから何をやりたいのか考えるということも起こります。やりたいことよりも、まず難関大学に入ることが優先されると、結果的に一浪してでもその大学に入ることを本人も、あるいは周りも正当化しやすくなるのではないかと考えています。そして皮肉なことに(?)、やりたいことが決まっていない人にとっては、教養学部を持つ東大という偏差値的には一番難しい大学が、一番「潰しが効く」大学になってしまっています。

難関大学に女性が少ない理由は他にいくつかあるのですが、インタビューからは将来の展望と進路選択の関係が男女で異なることが重要なのではないか、そんな仮説が浮かび上がってきました。さらに、学部ごとの選抜、国公立大学の受験回数の少なさ、予備校といった浪人をしやすい環境など、日本の大学受験のシステム自体が、進路選択の男女差を拡大させるようにデザインされているのではないかと考えるようになりました。

学力(テストの点数)に応じて進学先が割り当てられる日本的なメリトクラシーは、実力勝負という意味では平等なのですが、少なくとも大学受験制度は意図せず非メリトクラティックな考えを持ちやすい集団(将来の職業や大学で学びたいことを重視する人)が難関大学にアクセスしにくいようにできている、そんなメリトクラシーの「罠」ともいえる側面について、もう少し議論を深めていこうと思います。

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