第一回は3月9日にあり,課題はマキアヴェッリ『君主論』
お恥ずかしい限り,マキアヴェッリは初めて読んだので,素人的な質問ばかりしていたけれども,以下の書評にあるように,マキアヴェッリが読まれ続ける理由に,彼が想定したような為政者と民衆の関係をまだ説得的に考えてしまうという点などをコメントに残した.
知らなかったこととしては,マキアヴェッリは共和主義者だったということ,正常不安なイタリアに限って君主独裁制が向いていると考えていたこと,マキアヴェッリは民衆を限られた情報の中で利己的に行動する合理的個人として捉えていてこと(あわせて,政治と宗教の関係を相対化してみていたこと),自分の論旨の根拠となる実例を歴史から導きだしていること,政体の分類を丹念に行っていることなどを知ることができてよかった.
勉強会は4つのグループに分かれて,毎回1グループが背景説明などのプレゼンをするのだが,やはり本に書かれていた固有名詞を自分で探してみるという作業はおっくうになりがちでさぼりがちだけど,発表を聞いてとても大事なことだと感じた.
以下コメント 政体分類に付いて言及していないためレジュメとしてはA-をつけられた(´・ω・`)
マキアヴェッリははっきりとは認めていないけれども,外敵から国を守るための軍隊の整備を進言しており,国家が暴力装置を独占する必要を説いている。また、人が善人になるのは「やむを得ない状況」に限られていると述べていることからしても、民衆に対して、一貫して性悪説に立つマキアヴェッリは、狐のような狡猾さとライオンのような獰猛さを持って、支配を貫徹することを説く(102-103)。その背景に「人間の思惑の全く外れる世相の激変を、日夜、見せつけられている」という時代診断があったことは想像に難く無けれども(143)、いくら毅然とした態度で、善行を積み重ねたとしても、人に恨まれることからは逃れられない(112-114)とするマキアヴェッリの頭の中では、政治は統治者と大衆の闘争の場として措定されているのではないだろうか。そこでは、理念や誠実さなどといった小奇麗なものは取り払われ、「そうであるように見せること」が勧められている(①)。
あくまで彼は「イタリアのすべての民に幸福をもたらす」(148)ためには、どのような為政術が必要かを君主に進言するために、この著作を書いている(②)。これに対して、国家を維持し、繁栄させるためには手段を択ばない支配の方法を認めている(③)彼の考えは非常に冷淡で、残酷なものに映る。加えて、民衆に一貫して統治者にあらがおうとする性格を付与する彼の想定には、同意できない場面も出てくるだろう。しかし、そうであるがゆえに、マキアヴェッリは統治者の責任を鋭く指摘する。民衆を、固定的利害を持つ存在として一様にとらえたことで、国の盛衰を君主の力量に帰する君主責任主義ともいうべき姿勢を打ち出している(141)。この姿勢は、「りっぱな進言を得たとしても、良い意見は君主の思慮から生まれるものでなければならない」(140)と認めていることからも推察される。なにより、この著作自体が臣下から君主への進言の形をとっており、マキアヴェッリの進言はさぞ強烈なものだったろう。国家の盛衰は君主の力量にかかっていると喝破したマキアヴェッリの功績は小さくない(④)。
現代政治学は、国民の信用を得て、その利益をかなえるための代理人としての国家を前提としながら議論を進めるが、この想定はマキアヴェッリの考えていたような国家像とは大きく異なる。にもかかわらず、彼の著作がいまだ読み続けられるのはなぜなのだろうか。それは、ひとえに彼の描いたような統治者と民衆の対立、闘争のイメージが我々に説得的なものとして映るからである。近代における組織はすべからく、その成員が持つ権利が対象とする資源への制御権を代行している。株式会社にしろ、議会にしろ、成員は組織に対して何らかの信用をおいて統治をゆだねている。そこでは、不正や詐称があった場合に、成員によるサンクションが与えられるはずだが、実際には、株主総会や選挙がそのような機能を果たしているかということについて、私たちは懐疑的になってしまう。成員が統治者に対する制御権を持っていると、なんとなしに肯定できない状況が続く限り、マキアヴェッリは読み続けられる気がしなくもない。
翻って考えてみると、私たちはなぜ自分たちの国家を正当なものとしてみなしているのだろう。マキアヴェッリの考えでは、甘い姿勢を見せてしまえば民衆に裏切られるのだから、統治者が「そうであるように見せ」れば良いことになるが、現代に生きる私たちは「そうであるように見せ」られていると、本当に思っているだろうか。彼は一貫して君主の為政術を唱えたため、民衆の権力承認過程に対する考察が甘いのかもしれない。どのように考えればよいだろう。
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