February 18, 2020

2月18日:奇妙な1日

奇妙な一日だった。まず工事が午前7時半から始まる。工事の音で起きるのはあまり気持ちがいいものではない。ランニングしてシャワーを浴び朝ごはんを食べ大学へ。少し分析をして昼のトークの論文を読み、論文にもらったコメントを文字に起こして人口学セミナーへ。少し早めについてしまったが、今日のランチはスシだったのでラッキーだった。昼からスシはテンションが上がる。トークも面白かった。

トークは1時に終わり、3時半にスピーカーの人とミーティングがあったのでそれまで授業の予習や分析をしようかと思っていたが、図書館で少し昼寝をして階段を上っていたらアドバイザーとアドバイザーのアドバイザー(グランドアドバイザーとしておこう)の一行と遭遇、見知らぬ人が二人いたのだが、NY領事館の人だった。なんでも中国研究所を視察に来ているらしい。簡単にご挨拶してオフィスに戻ろうとしたのだがグランドアドバイザーにお前もついてこいと言われ、自分のオフィスがある2階を過ぎて3階の中国研究所の会議室へ。そこで私は日本から留学しに来ている数少ない学生然とした振る舞いをしていたのだが、興味深い話をいろいろ伺えたので、よかった。私は基本空気が読めないと言うか、思ったことをそのまま言ってしまうたちなのだが、こういう「オトナ」の社交みたいな場では、さすがに思ったことをそのまま言わないほうがいいと気づく。最低限、私も人間らしい。

スピーカーの人とのミーティングの時間が近づいてきたので途中で抜けて階を降りる。金魚鉢(本当にそう言うのだ)ルームで1対1でミーティング。マディソンの時は院生がスピーカーの人と会えるのは3人だけで、学期中3回までしかスピーカーとのランチに参加できない。プリンストンでは、話したいといえば基本的に30分の1on1の時間を用意してくれるので、贅沢だと思う。マディソンの時はだいたい上級生がリードして私が2、3質問してつつがなく終わる、みたいな形が多かったのだが、30分とはいえ、1対1で初対面のネイティブスピーカーの人と研究の話をするのは、正直完全に慣れたとはいえない。基本的に人見知りなのと、一応30分のうち5分くらいは研究以外の他愛もない話、例えば自己紹介をして私が転学してきたんだといえば、プリンストンはどう?みたいな質問をされるので、そういう話でなんとなく場を温めるのがこの手のミーティングのあるあるなのだが、こういうコミュニケーションは社交辞令的な感じがして自分はあまり得意ではない(というか、日本的なコミュニケーションだと、そういうのが少ない)。あとはジョークを言ったほうがいい場合なのか、共通のバックグラウンドを見つけて話の土台を作るのがいいのか、それとも稀に相手がそうした社交辞令を必要ないと思っている人なのか、その辺りを瞬時に判断するのが得意ではない。相手がどういう人なのか直感に頼りながら数分で考える瞬間が、1日で一番集中しているかもしれない。

とはいっても、その儀礼的な5分が終われば基本的には実直に、フェアに、研究の話をできいるのがアメリカ的なコミュニケーションで好きなところである。日本だと年齢やポジションによっては、フェアに話すことが難しいのに比べると。もちろん、実直といってもナイスに質問するし、相手も質問に対してはナイスに答える。この手のミーティングは、howの部分では極めて儀礼的である。ただ、whatはかなり突っ込んでもいい。日本的なコミュニケーションだと、whatも立場や状況によって制約されることが多い。

スピーカーの方はミシガン大学で博士をとって、現在ハーバードのポスドク、2021年からAPになる人だった。祖父母などの拡大家族の研究をしているのだが、核家族規範が強いアメリカではこの研究はかなり新しいらしく、報告では18歳になるまでに最低一回拡大家族と一緒に過ごしたことのある人は3人に1人で予想しているよりも多い(もっとも、durationは短いのでprevalenceではなくperson yearで考えると必ずしも人の人生の大半を占めているわけではない)、社会階層と拡大家族の間にははっきりとした関連があり、主として低所得のマイノリティ家庭におけるセーフティネットになっている。

彼女の主張は核家族規範を相対化し、人種・エスニシティやSESによる異質性を確かめ、より正確な拡大家族理解を促すことが政策を考える際にも重要、というものだった。アメリカの福祉政策は基本二人親を前提としてひとり親が増えていく中で二人親並みの手当になるような政策が取られているのだが、こうしたフレームだと拡大家族は抜け落ちてしまうので、重要な研究だと思った。

東アジア的な文脈だと三世代同居が規範的な状態から核家族への移行が起こるという流れがあるので、アメリカにおいて拡大家族が今着目されているというのは意外な発見で、彼女の主要な論文を読んだ上で、日本の知見から自分が抱いた疑問などを素直に聞いてみた。非常に丁寧に考えを教えてくれて有り難かった。

予期せぬミーティングの後で1対1のミーティングが続いたので疲れてしまい、もうもぬけの殻状態である。もう少し体力をつけないといけない。

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