October 1, 2020

これまでの10年・これからの10年

誕生日を気にしなくなって久しいが、今年はいよいよ30代に入ることが数日前に頭をよぎり、これまでの10年とこれからの10年に思いを馳せていた。

10年という数字で過去を振り返るのも恣意的かもしれないが、人口学をやっていると人の年齢や出生年を10年区切りにして考える癖がついてしまい、いよいよ自分も「20~29歳」ではなく「30-39歳」に丸をつける年になったのだと思うと、ずいぶん歳を取ったような気もしている。

この10年の自分は非常に我儘だった。自分が持っていないものを得ようとがむしゃらに、時に人に迷惑をかけながらも突き進んでいった気がする。東大に入り、与えてもらったチャンスは全て自分のものにしようと、興味が出たらすぐ手をあげ、新しい世界を見させてもらった。その結果、両立ができなくなって駒場に残りたかったにもかかわらず成績が足りずに文学部に進学することになった。駒場の後期教養学部に進学したかったのは、当時駒場生にのみ機会が開かれていたミシガン大学への交換留学を目指していたからだが、その願いは叶わず、文学部の協定で行けるマンチェスター大学へ留学をした。大学院に進んでからは、留学するか、国内に残るか悩みながらの日々が続いたが、既に自分で論文を書けることを示したくて、修士課程から投稿論文を出していった。そうすることで、アメリカに行ったら日本で就職できなくなるよとか、日本語で論文を書けないのになぜ海外に行くのかといった疑念を抑えたかったのかもしれない(そういうことを露骨にいう人はほとんどいなかったが、心の中に重圧はあった)。そして幸運なことに第一志望の大学に留学でき、指導教員の移籍に伴って偶然プリンストンに来てしまった。

このように、20歳からの10年は常に現状を変えたいという思いで、選択肢が与えられたら積極的にリスクをとってきたと言えるだろう。そういう意味では、あまり周りを顧みることはできなかったし、自分本位だったと思う。

それで失ったものも少なくないが、今の自分の視点から過去の自分を擁護すると、昔の自分には何もなかった。田舎から上京してきた学生で、親戚に大学に進学した人が1人を除きいないところで育った自分は、大学で何をすれば良いのか、アドバイスしてくれる人がいなかった。だから、自分で探すしかなかった。親は研究者ではもちろんないから、大学院に行くこと、留学することなんて選択肢にもなかった。だから、チャンスを生かして、そこから自分で考える他なかった。裏を返すと、東大で出会った友人や先生たちがこういう身勝手な自分にたくさんの機会を提供してくれ、それを享受するばかりの10年だったと言えるかもしれない。

この10年で年を取ったのと、今いる大学の恵まれた環境のおかげで、この10年の自分がいかに利己的だったか、世の中の流れに抗いながら生きていたかを振り返ることができている。これからの10年も、チャンスを得るためにチャレンジを続けることは必要だが、いい意味で無理をしない、現状を受け入れることも大切なのではないかという気がしている。この10年は無理をすることも多かった、それで得るものもあったが、失うものも、もちろんあった。それが原因で、身体的に、精神的に疲れることも増え、少しづつであるが無理が効かなくなってきた気もする。

体調が優れない日々を経験して学んだのは、無理をして体を、心を壊してしまってはできるものもできなくなってしまうことだ。短期的には、それが正解かもしれない。しかし、次の10年を考える時、20代の10年のように行き当たりばったりの無理ばかりをしていては、そもそも40歳になれるかわからない。計画的に、無理をせず、諦める勇気も持ちながら、これからの10年を生きていきたい。世の中の流れに抗せず、うまく身を委ねることで自分を目的地に運んでもらう気持ちも必要なのではないかと考えている。

これからの10年は、自分の人生の中盤、後半に対して非常に重要な期間になってくる。予定が狂うことがなければ、4年後に博士号をとり、35歳前後で職を得ているだろう。現在の第一希望はアメリカの研究大学だが、その場合7年間で業績を積み、テニュアを取らなくてはいけない。40歳になる頃はテニュア審査期間の後半に入ってるだろうから、おおよそ目処は立っているだろう。そこでアメリカに残るのか、日本に帰るのか、もちろんそれ以外の選択肢もあるだろうが、40歳になった時に、できるだけ自分が希望する次の10年を歩めるような状態になっていたいと思う。

並行して、自分が全力で研究できる、最後に10年になるかもしれない。この10年で基礎はできた。これからの10年で自分にしかできない研究を本当に世に出すことができるのか、試されることになる。これまでお世話になった先生は、これからの私の研究に投資をしてくれたと思う。期待に応えられるよう研究生活を歩んでいきたい。あまり日本的な道徳観は好きではないのだが、最近見たドラマの言ってることを真似すれば「恩返し」の10年にしたい。

No comments:

Post a Comment