May 17, 2020

環境形成を通じて遺伝子が社会階層へ与える影響

多くの遺伝子が寄与している複雑な形質、例として教育年数など、に対してはGWAS と呼ばれる手法 が発展したおかげで、現在までに無視できないレベルで遺伝子型(genotype)と表現型(phenotype)の関連があることが明らかになっています(Lee et al. 2018)。例えば最新の知見では、ヨーロッパに先祖をもつ集団に関して、教育年数は11-13%程度、遺伝的な要因によって予測されています。

これは個人が持っている遺伝的なポテンシャルが実際の結果をどれだけ予測するか、という指標なのですが、どのような経路(pathways)を通じて遺伝型と表現型が関連しているかは、そう単純ではありません。遺伝型と表現型双方に影響するような交絡がある場合には、両者の関係はspuriousなものになります(有名な例は「箸」遺伝子)。直接影響がある可能性もありますが、遺伝子レベルのポテンシャルが、アウトカムに先行する別の環境要因を誘発し、それがアウトカムに影響するという間接的な経路が存在するかもしれません(Gene-environment correlation, rGE)。

さらに、最近の研究で「遺伝していない」遺伝子も子どものアウトカムに影響することがわかってきました。これをgenetic nurture (Kong et al. 2018) と呼びます。具体的には、子どもは生物学的な親から半分の遺伝子を継承するわけですが、継承した遺伝子だけではなく、継承しなかった遺伝子(これらは全て教育年数を予測するもの)も子どもの教育年数に影響するのです。遺伝的なメカニズムでは説明できないこの現象をKong et al. (2018)ではgenetic nurtureと名付けました。これは要するに、遺伝していない親の遺伝子が家庭環境などと関連しており、その家庭環境を通じてnon-transmittedな遺伝子が子どもの教育達成に影響するというメカニズムを指します。具体的には、子育て(parenting)の影響などが現在指摘されています(Wertz et al. 2019)。もう少し踏み込むと、教育年数が高くなる傾向にある遺伝的なポテンシャルを持つ親は、子どもの教育年数に対してポジティブに働くような子育てをする傾向にある、ということですね、effect sizeは小さいですが関連はあります。

このようにgenetic nurtureはnon-transmittedな遺伝子の環境形成を通じた影響だと理解しましたが、つい数日前に出たMills and Tropf(2020)のレビューだと、transmitted genome とoutcomeに影響するenvironmentの関連(rGE)はgenetic nurtureと発想は似ていると書いてあり、なるほどと思いました。

つまり、子どもに遺伝していても、していなくても、親が持っているゲノムが子育てなどに影響する場合は全て環境を通じた影響になるということですね。したがって、遺伝的なポテンシャルと教育年数の関連をみる際には、その相関係数が能力や知能的なものを反映していると素直に考えるのではなく、どのような環境を通じて影響しているのか(+ゲノムとアウトカム双方に影響する交絡)も踏まえなくてはいけないと思いました。

以下、transmitted/non-transmitted ごとに社会階層論の枠組みでアウトカムへのpathwaysを整理してみました。社会階層論では、親の階層を出身階層(origin, ascribed status)、子どもが達成した階層を到達階層(destination, achived status)などと言ったりしますが、今考えているのは、ゲノムというのは親からの遺伝という意味でinheritedな特徴を持ちつつ、教育へのポテンシャルを考えると何らかの能力を測定している、その両面があるということです。以上の話では遺伝子と環境の交互作用(interaction)の話はありませんでしたが、階層論に関連していくつかメモしています。

Non-inherited genome
  • Genetic nurture (Kong et al. 2018)
    • 50% of the genome that are not transmitted to children do influence children’s realized education, suggested pathways are the family environment parents create based on the non-transmitted genome, like parenting (Wertz et al. 2019).
Inherited genome
  • Ability aspect
    • Polygenic score for years of education predicts 11% of the total variance of realized education. Related aspects (cognition, intelligence, and non-cognitive skills) provide similar estimates.
  • Origin aspect
    • Although half of the parent’s genome is transmitted from either mother or father to offsprings, the genome is still shared by parents so it may influence children’s education through the influence of parent’s genetics for the creation of a family environment (Gene-Environment Correlation, rGE, Mills and Tropf 2020). One study presented that the effect of the genetic potential for educational attainment on realized education is attenuated after controlling for social origins (Belsky et al. 2018), suggesting this might be the case.
    • This is similar to the genetic nurture argument (Kong et al. 2018) although this hypothesis itself is focused on the role of non-transmitted genes for children’s realized education  
Gene-environment interaction
  • Estonia’s example (Rimfeld et al. 2018)
    • Transition from the communist regime to the capitalist regime increased the contribution of one’s genetic potential for years of education to the realized education, suggesting that the meritocratic selection favors one’s merit and ability rather than the ascribed background.
  • Negative interaction between parent’s SES and genetic potential (Saunders hypothesis)
  • Positive interaction between parent’s SES and genetic potential (Scarr-Rowe hypothesis)

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