December 28, 2023

とある研究会後の感想

 社会学では、ある社会(日本とする)を理解するために理論を使うアプローチと、理論を前に進めるために日本を使うというアプローチがある。

この二つのアプローチを、論文を書く時、自分は分けて考える。基本的に英文査読誌に書くときは、後者のアプローチをとる。端的に言ってしまえば、アメリカの社会学のオーディエンスの95%は日本に興味がないと思った方がよい。そういう人にも、自分の研究が面白い・意義があると思ってもらえ、ひいてはそういう人たちがコントロールしている雑誌に掲載されるためには、論文が社会学一般に、あるいはフィールド誌であれば、特定の連字符社会学に対して、どのような理論的意義を持つかを議論する必要がある。

これに対して、前者のアプローチは、いわゆる日本社会論と呼ばれるものに近い。それをアメリカやヨーロッパの研究者をベースにした英文査読誌に書くのは、容易ではない。ゲームが必ずしもフェアではないのは、アメリカにいる社会学者でアメリカを研究対象としている人は、アメリカ社会を念頭に置いた問いを立て、それをアメリカ社会のデータで検証し、結果を議論するだけでも、十分トップジャーナルに掲載することができる。要するに、アメリカの社会学者は、アメリカ社会論で論文を書いても、社会学一般で評価される。これに対して、非アメリカの事例は、理論的意義へのバーが高いと思った方が良い。そのため、後者のアプローチを取らざるを得ない。

言い換えれば、前者のアプローチを動機とした研究ができるためには、アカデミア内で当該社会に対する関心が広く共有されている必要がある。その点、日本社会論はマーケットがそれなりに成立している稀有な事例かもしれない。というのも、日本の社会学は、日本語で雑誌、書籍を書くだけでもちゃんと業績として評価される。それは、英文ジャーナルランキングに基づいてテニュアが審査されるような、中国や韓国のアカデミアを見ていると、幸せなことなのではないかと、思う。

これは、一般的には日本のガラパゴス化の一種であると言っていいと思う。日本の社会学は、日本語という言語による縛りがあることに加えて、日本の大学院で研究者を再生産できており、業績評価のシステムも日本独自である。そのため、日本社会論的なアプローチだけで研究をしていても、特にペナルティはない。

二つの考えに優劣はないし、理想としては両方のアプローチを統合できるに越したことはない。ただし、アメリカのアカデミアは、トップジャーナルになればなるほど、素材をどうパッケージング(フレーミング)するかが重要になる。定義はどうであれ、国際的に活躍したいと考えるような人が増えている若手の研究者層では、徐々に後者のアプローチを取る人が増えるような気がしている。

そういう意味で、前者中心の考えが支配的なシニアと世代差を感じた1日だった。

December 8, 2023

ハーバードアカデミーでの面接

 水曜日にポスドクの面接があり、ボストンに行ってきました。ハーバード大学にあるWeatherhead Centerという国際地域研究所の下に、Harvard Academy(HA)という名前の組織があるのですが、そのセンターのポジションで、正式名称はAcademy Scholarといいます。多くの地域研究系ポスドクは1年なのですが、このポジションの任期は2年間で、その点を魅力的に感じています。また、(Senior scholarとして所属するファカルティや同じAcademy scholarとの夕食やセミナーを除くと)義務らしい義務も特になく、自分の研究に集中して取り組むことができます。プロジェクト雇用のポスドクは任期が2年や3年でも自分の研究をする余地が限られることを考えると、大きなメリットです。

と、つべこべ御託を並べていますが、ジョブマに入った時はこのポスドクの存在は全く知らず、おそらくASA(アメリカ社会学会)のジョブサイトに出てきて、初めて知ったと記憶しています。最初見た時は、「ああ2年のポスドクか、出してみよう」くらいの気持ちでいたのですが、11月初めに「442人の応募者の中からあなたを30人のセミファイナリストに選びました」という、何とも有体なメールがきました。最初スパムの可能性を疑ったのですが、中身を読むと、HAからの本物のメールでした。11月中旬に次の選考があり、そこで10人のファイナリストに選ばれたらボストンで面接があります、と書いてあり、ポスドクなのに現地で面接とは何やら大袈裟だなと、そのあたりで怪しく思い始めました。

気になったので、よくウェブサイトを見てみると、過去の応募数の統計が出ていたり、さながら博士課程の入試のような雰囲気。ひどい年?には716件の応募がある中で、たった4人しか採用されなかったとあり、ポスドクでこの競争率はちょっと異常だなと思いました。さらに見てみると、どうやら他のポスドクに比べてリサーチサポートなどがかなり充実しているように思えてきました(substantial supportと書いてあるだけで具体的にいくらか書いていない、普通は3000ドルの研究資金が出ますみたいに書いてあります)。

この時点で、少しおかしなポスドクに出してしまったことを悟り、淡い期待を持ちながら、11月中旬のフォローアップを待ちました。そして、なぜか10人の最終候補者に残ってしまい、今週の面接に至ります。

11月半ばにもらったメールには、面接官はSenior scholarとしてHAに所属しているハーバードの教授クラスの先生で、30分の面接時間でひたすらアプリケーションに基づいて質問しますと書いてあり、やっぱり他のポスドクとはちょっと違う雰囲気を感じます。10人の候補者を一度にケンブリッジに集め、1日で面接して、その日のうちに5人に決めますというガイダンスが書いてあり、どことなく文章からはbriskで冷徹な感じが伝わってきました。

前日に予約してもらった飛行機でボストン入りして、これも予約してもらったホテルにチェックインしたのですが、どうやらスイートルームを予約されているようでした。対応してくれたホテルのスタッフの人にも、僕が一人で来ていたので「え?お前がスイートルームなの?」みたいな反応をされ、一瞬、変な空気が流れたのを覚えています。スイートルームはリビング兼会議室の部屋が一つ、そして(部屋が別々の)ベッドが2台ありました。ここまでくると怪しさも頂点に達し、苦笑せざるを得ませんでした。正直にいうと、もったいないのでやめて欲しいなと思いました(別に空き部屋があってアサインされたのなら、誰も困らないのでいいのかもしれませんが)。

食事代も制限は特に書いてなく、ちょっとした霊感商法に引っかかってるんじゃないかという疑いを拭えず、翌日のことを考えて眠りにつくのですが、枕があまりあわず、起きた時には少し頭痛気味でした。あー、これは終わったなと覚悟して窓を開けると、雪が降っていました。まさか、ボストンで季節で最初の雪を見ることになるとは(しかもボストンでの今年最初の降雪だったようです)。朝食とシャワーを済ませ、想定問答を考えながら、チェックアウトをして会場に向かいます。

Faculty Clubという大学関係者用のイベントスペースが会場だったのですが、ドアを開けると、スタッフの人が待っていて、立て替え払いの書類を渡してもらいながら、時間になるまでしばし雑談します。普通、ポスドクは現地で面接はしないと思うので、驚きましたなどという、当たり障りのないことをいうと、スタッフの人からは「丸一日かけて選考するsociety of fellowsに比べれば、うちらは30分の面接だから大したことないですよ〜」という謎の謙遜が入り、あ、この人たちはHAをsociety of fellowsと比べているのだと思い、ちょっとしたエリーティズムを垣間見ました。

面接の時間3分前になって、もう一人のスタッフが2階から降りてきて、私を会場の部屋まで連れて行ってくれました。11時20分に面接は開始だったのですが、スタッフの人は時計を見て、11時20分ちょうどになった時にドアを開けてくれて、アメリカらしからぬpunctualさに動揺し、緊張のレベルが1段階、上がります。

席に座ると、そこには9名の教授たちが、私の目の前に逆Uの字になる形で白くてピンと張られたテーブルクロスのかかったテーブルの周りに座っており、もうこの時点で「これは殺されるな」と覚悟します。テーブルの上には、候補者の論文やアプリケーション資料と思われる書類が束になったフォルダが重ねてあります。圧迫面接のセッティングとしては、これ以上出来上がった場面もなかなか想像できません。

チェアの先生から軽く自己紹介があった後、最初に質問してくれたのは、中国政治が専門の先生(一番分野的に近い人が質問するとマニュアルにありましたが、社会学の先生がsenior scholarには一人しかおらず、その人は欠席していたので、東アジアということでその人が質問したのだろうと推測)。

質問は、ざっと30秒。事前に送られてきたメモには、回答は簡潔に(なぜなら全員質問するので)とあったので、あ、これは2分くらいで締めないといけないやつだと思い、眠い頭をフル回転させて、30秒間、質問を聞きながら、何をどの順番で言うのか、この人は政治学の人だけど、どのレベルの深さで回答すればいいのか、そんなようなことを同時に考え、少しパニックになりながらもひとまず一つ目の質問に答えます。その後、文字通り間髪入れず、次の先生から、また質問、それが終わると次の先生からまた質問、この2分半のセッションを12回くらい繰り返しました。

正直、人生で一番の圧迫面接だったと思います。

いったいぜんたい、この面接で何をみようとしているのか、皆目検討がつきませんでした。圧迫面接の中でも、ロジカルに本質をついた答えを、素早く簡潔に答える能力を測っているとしたら、それは別に研究者には必要ない能力だと思います。

前半は、苦労しながらも一応納得のいく答えを出していたのですが、中盤である経済学の先生が質問した内容が、一瞬理解できず、しかし聞き直す空気でもなかったので、混乱しながらも答えていたのですが、会場の空気が「あ、こいつ質問の意図わかってないな」という感じになるのを察し、頭が真っ白になりかけました。なんとか答えきったのですが、質問をした先生は「あ、そう」みたいな反応で、この時点で不採用を覚悟しました。

後半の質問に対しては、この中盤の出来事がひきづって、ずっと宙に浮いたような気分で回答するばかりで、もう一思いに殺してくださいと言いたくなる時間でした。

そうやってなんとか30分が経って部屋を出た瞬間、「もうこれはダメだな」と諦めの境地に達しました。意気消沈したまま、友人とのランチに出かけ、少し気分は紛らわすことができたのですが、帰路に着く時には脳内でずっと自己反省会をしていました。もう少しよく眠れていたら違っていたんじゃないか、中盤の質問が最後だったら後半に響かず、印象も違っていたんじゃないか、そもそも、なぜあの質問にテンパってしまったのか、日々考えをめぐらせていない自分の不勉強を恥じるばかりでした。

そうやって底をついた気分で、夜の便でプリンストンに戻り、ルームメイトにことの顛末を話して、もうその時点では今回の面接はちょっとしたdisasterだったと思うようになっていました。今までの面接の中でも、一番プレッシャーがあり、中身も濃く、そしてうまくいかなかった、ちょっとした悪夢のような時間で、すぐ忘れたい、そう思いながら眠りにつきました。

そして翌日、早く目が覚めてしまい、何もやる気が出ず二度寝三度寝を繰り返し、ツイッターをいじりながら、そろそろ起きるかと思っていると、10時ごろになって電話がかかってきました。知らない番号で、怪しみながらも出ると、昨日のスタッフの人からで、開口一番「おめでとう」と言われました。

現実のはずなのに夢みたいな瞬間というのは、本当にあるのだと知りました。

December 3, 2023

NYC

 半年ぶりに地上のNYCまで出て、社会学研究室の先輩に会ってきた(サバティカルで一年滞在されているとのこと)。まず髪を切って、中華整体で体を整えたあと、セントラルパークのあたりで先輩と会ってお茶。そのあと、二人でMETに行ってきた(実は自分は初めて)。NJの学生だと、入場無料というのを初めて知って、もっと行っておけばよかったと後悔した。エジプトの遺跡の展示や、印象派など、常設展でもすごいボリュームで圧倒された。

先輩の知識量にも、METなみに圧倒された。本郷の社会学研究室の先輩には、昔ながらの研究者よりも学者といったほうが適切なような、本当に学が広く深い人がいる。もちろん、自分みたいに不学な人間でも、それなりに研究はできるのだが、日曜の午後にお茶を飲みながら世間橋をするときに、自分の研究に対する知識は、そこまで役に立たない。久しぶりに人と話すと、自分の教養の無さに気付かされる。

夜ご飯もごちそうになり、久しぶりに休日を満喫した。ジョブマと研究の両立でほとんどこうした日常の振り返りができていなかったが、そんな風にしていると、いつのまにかつまらない人間に(もしかしたらすでになっているのかもしれないが)なりそうなので、折を見て日記も書いていきたいと思った。

October 19, 2023

掃き溜めに鶴

 自分の大学メールアドレスのスパムフォルダーに入るメールは、大体2種類に分けられる。一つがデタラメの(中には本物もあるのかもしれないが)学会やジャーナル投稿のお知らせ。昔は札幌で開催されるよくわからない公衆衛生の学会のお知らせが来ていた。もう一つが、存在しない公募のお知らせ。中にはAcademic job postings at Socioloxyのように、タイトルでスパムであることを教えてくれるので、からかわれているのか、真面目に騙そうとしているのか、よくわからなくなる。この論文を元に本を出版しませんかというお誘いも、100%デタラメ。というか基本的に、この業界にいると知っている人からの紹介じゃないものは、極端に信用が薄いと思われる。

ただ稀に、違う大学の人から来る初めてのメールはスパムフォルダに入っていることがあるので、一応数日に一回はチェックする癖をつけている。ジョブマーケットに入ってからは、ジョブマ関連のメールが偶にスパムに来ることがあり、毎日チェックするようになった。

そういう意味では、今日のスパムフォルダは、さながら掃き溜めに鶴、スパムフォルダに嬉しいお知らせだった。自分の研究分野ではヨーロッパのハブである某大学、というか隠す必要もないので書くとナッフィールドカレッジのPrize Postdocのショートリストに入ったので、面接に呼びたい、というメールが届いていた。

出願したときに心のなかで声がかかるといいなとは思っていたが、実際に連絡が来ると嬉しい。条件は3年で、何もobligationはない。自分の好きな研究をすればいいだけ。給料はポスドク+イギリスなので低いが、オックスフォードに3年身を置けるのは、今後の研究を考える上でも、この上なく幸せなことだと思う。自分が憧れる大学は3つあり、一つがウィスコンシン、一つがミシガン、そして最後がオックスフォード。ウィスコンシンは一年いたし、ミシガンもサマースクールなどで多少の機関滞在していたことがあるので、あとはオックスフォードに滞在したいと常々思っていた。

研究面で言えば、ナッフィールドカレッジは社会階層研究の中心であるし、オックスフォードには日本研究所もある。最近は人口学研究所もできた。世界的にも稀な、自分のやりたい研究が全てできる場所だ。

そんな心躍るお知らせがスパムフォルダに入っていたのだから、皮肉である。ジョブマにいる人は、毎日スパムフォルダをチェックしなくてはいけない。

その後すぐ、こちらもスパムに入っていたが、某南部にあるD大学のポリシースクールからレターリクエストの連絡。selected applicantsと書いてあったので、long listに入っているのかもしれない。もっとも、今年はAPを3人も雇おうとしているので、普通よりはリストのサイズも大きいだろう。自分もその恩恵に預かれたのかもしれない。アメリカの大学から次の選考に進んだという連絡が来たのはこれが初めてだったので、こちらも嬉しかった。

ひとまずこれで連絡があったのは、香港(ジョブトーク)、シンガポール(ジョブトーク)、カナダ(ロングリスト)、イギリス(ポスドクショートリスト)、そしてアメリカ(ロングリスト?)の5つ。うまく地域的にもばらけた。アメリカの大学院に出願したあとの回顧で、アメリカのPhDを取っていると世界中で就活できるみたいなことを、実感もなく馬鹿の一つ覚えみたいに言っていたことがあるが、その効用をひしひしと感じている。


October 8, 2023

アメリカの大学は遅い

 先日あったインタビューの結果、現地でのフライアウトに呼ばれることになりました。まだいつになるか決まっていませんが、長距離の移動になるので時差ぼけなどに気をつけねばなりません。それともう一つ、噂段階ですがジョブトークに呼ばれる?みたいな話を聞きました。北米の某大学のロングリストには残っているようで、そこは人口学者を雇うと公募資料には書いてあり、フィットもよく期待しています。中西部の同じく人口学者を公募していた大学からは御祈りメールがきました。ファカルティの先生からメールが来て出願してねと催促されたので期待していたのですが、人口学+環境問題について研究しているという若干奇妙な公募で、そのままだとあまり応募が少ないことを懸念したからだと思っています。書類で落とされたということは、おそらくその奇妙な公募内容にフィットする人が結構応募してきたのでしょう。巡り合わせなので仕方ありません。

それ以外の大学からは、ほとんど連絡がきていません。この月曜にようやくこの資料が足りてないから急いで出してみたいなメールをもらったくらいなので、9月半ばに締め切った公募も10月になってようやくスタートというところが珍しくないのかもしれません。アメリカの大学のポストの方が相対的に応募の数は多いので、選考プロセスが遅くなるのはよくわかります。アジアの大学が早いのは、応募の数が少ないこともあるでしょうけど、それよりもアメリカの大学より早く動かないと人が取られてしまうという危惧の方が大きいのではないかと思っています。

というわけで、ぼちぼちジョブトークの用意をしなくてはいけません。

October 2, 2023

オンライン面接

 今日は夜九時半からとある大学の一次面接がオンラインでありました(A大学としましょう)。この面接で印象が良ければ、おそらく対面のジョブトークに呼ばれます。面接にいたのは4人の先生、一人が社会学ではない先生でした。20分と聞いていたので、なんとなく前半は研究、後半はティーチング、余った時間で僕から何か質問という流れをイメージしていたら、予想通りの順序になりました。

最初に、うちの大学に就職するとしたら、どういう研究をしたいかという質問。早速予想していない質問から来ましたが、おそらく大学に来ることをイメージできているかの探りを入れたかったのかなと思います。A大学にはアジアの研究をしている人が多いので、そこをプッシュしました(し、それは本心です)。研究に関しては、意外としっかりペーパーを読まれていたという印象です。最後に書きますが、書き上げて1年以上経っている論文を情熱的に語るスキルは結構大切な気がします。君の論文読んでこういうこと思ったんだけど、どう思うかなみたいな質問をもらって、少し戸惑いましたが、返答は一応納得してもらえたような気がします。

次のティーチング関連の質問は少しやらかした感じ。最初に聞かれたのが、統計の授業を教えることになると思うけど、統計が得意な人もいれば苦手な人もいる生徒に対して、どのようにアプローチしていくか、という質問。統計の授業を教えたことがないので、実経験がないのも良くなかったかもしれませんが、全く予想していなかった質問だったのでテンパりました。ひとまず、自分は数式が得意ではないし、社会科学の授業であれば大切なのは実社会の問題からツールとしての統計を学ぶという順序だと思うという(それ自体は本当に思っているけれど何故か突発的に出た)考えを開陳しましたが、その後が続かず、確固たるteaching philosophyを持っていないと思われたかもしれません。後から振り返ると、学生同士で一緒に問題を解かせるとか、いろんな言い方があったように思います。普段からあまりティーチングについて考えていないことが仇になりました。この辺り、ティーチング量の多い州立大出身の院生の方が分があるかもしれません。もちろん、普段からこういうことを考えられていない自分がよくないのですが。

最後に、自分から聞きたいことはないかというコーナー。正直にアメリカから離れることへの懸念と、それをどのように克服してきたのかという質問をしました。ある先生の心に火をつけてしまったみたいで、2分くらいその人の経験をシェアしてもらって勉強になったのですが、自分が話すべきという面接の本来の目的からは少々外れてしまったかもしれません(まあそれくらい核心をつく質問だったのかもしれず、逆に印象には残ったかもしれません。zoomのミーティングタイトルが9-11時になっていたので、おそらく自分の前に一つ面接があったのだと思うのですが、あの熱量からは、前のインタビューではそういう質問はなかったのかなと思います)。もう一つ、自分の研究関心を踏まえて、どのような研究機関やアカデミックなコミュニティの存在に気づいておくべきかという質問をしました。

基本的に、ネガティブに聞こえるリスクを承知の上で、自分がその大学に就職したとしたら正直に気になる点を正直に話す戦略を取ったのですが、表面的な質問をするよりは、良かったかもしれません。大学内外のリソースとして何があるかという逆質問に対して、A大学の近くにあるB大学のこのセンターは君と同じ関心の人がたくさんいるよと言われ、自分はさすがに違う大学の話をするのはアレかなと思って自分から話題にはしなかったのですが、なるほど、そうくるかと思って、今年はB大学は誰も雇ってないんですよね(笑)みたいなノリで返答したら、苦笑いぎみで少しウケました。雰囲気的にそれくらいはぶっちゃけて話せる空気は感じたので、意外とうまく行ったといえば行ったのかもしれません。

感想としては、ライティングサンプルが意外と読まれていることに驚きました。「論文の知見で驚いたことは?」みたいなことを聞かれたのですが、正直3年前に分析が終わって2年前に投稿して1年前に出版された論文に対して、そこまで自分はライブ感を持って語れないというのが正直なところです(が面接では、すごくエキサイティングな雰囲気で知見を語る自分がいて、我ながら滑稽でした)。自分の論文を審査者が読むように批判的に読み込んでみる必要があるなと、今後に向けて反省になりました。

総じてサポーティブな雰囲気の中で最初の面接を経験することができて、とてもいい勉強になりました。

October 1, 2023

就活の途中経過

 9月初めから公募資料を順次提出していって、9月は合計で述べ53校に出願しました。内訳で言うと、アシプロのポジションが50で、ポスドクは3つです(ポスドクの公募は11-12月に本格化します)。地理的に見ると、アメリカがほとんどですが、イギリスと香港の大学にそれぞれ2つ、あとはカナダ、シンガポール、オーストラリアの大学にそれぞれ1つ出しています。

10月以降も締め切りはあるのですが、10月締切の大学についても、おおよそめぼしいところには出願してしまったので、これからはポスドク向けの公募資料の準備に入ることになります。おそらく残り15くらいは出せそうなので、これから出るのも含めて70くらいの大学に出願することになると思います。指導教員に聞いたら、彼の時もそれくらい出していたようです。僕の周りで本格的に就活をしている人に聞いても、大体60から80くらいのレンジに収まるので、ちょうど真ん中くらいかなと思います。公募書類と並行して、ジョブトークの用意をする必要があります。

就活をしてみて、思ったことが二つあります。一つが、自分が出せる公募が意外と少ないという点です。大学院の初めに噂で聞いてたのは、家族は学部の授業でよく教えられるので需要がある、したがって家族社会学を専門にしていると働き口には困らない、という話でした。そういう話を鵜呑みにして自分はのほほんと好きな研究ばかりしていたのですが、蓋を開けてみると家族社会学者を雇いたいと公募資料に明示的に挙げている大学はかなり少なかったです。

逆に公募でよく見かけるトピックはどれかというと、犯罪学、人種、健康になります。アメリカの社会学メジャートピックはこれかと言うくらい、感覚的には出てくる公募の5分の2くらいがこのどれかに当てはまる気がします。もし自分が「収監が人種の健康格差に与える影響」みたいな研究をしていたら、出せる公募は倍近くになったんじゃないか、そんな風に思いさえします。

よく研究者のタイプを従属変数型独立変数型で分ける考えがあります。従属変数型というのは、従属変数Yを説明することに関心がある人で、例えば「世代間の格差が維持されるのはなぜか」、「少子化が起こっているのはなぜか」、そんなアウトカムベースの研究を進める人たちを指します。これに対して、独立変数型の研究者は、特定の原因Xが複数のアウトカムYに与える影響に注目する研究者で、例えば収監が人種格差に与える影響は、健康もあるし、所得もあるし、家族関係もあります。もちろん、二つの性格どちらも満たす研究者もいて、例えば住宅からの強制立退(eviction)や人種による居住分離は、原因も重要ですし、その帰結も重要です。

何が言いたいかというと、自分はどちらかというと従属変数型の研究者で、例えば同類婚のトレンドが国ごとに違うのはなぜか、あるいは日本で難関大学に進む女性が少ないのはなぜか、そういう研究をしてきたのですが、そうすると従属変数にフィットしない公募には出せないし、就活を見据えてそうやすやすと関心を置くアウトカムをあれこれ変えることもできないのです。

ところが、独立変数型の研究者であれば、Yを複数設定できます。収監の例で言えば、犯罪学はもちろん、人種の所得格差であれば人種に関する研究者の公募にも出せ、健康格差であれば健康の酵母にも出せます。従属変数型の研究者に比べて、独立変数型の研究者はアウトカムを増やすことへのハードルが低いので、就活では従属変数型の研究者よりも出せる公募の数が多くなる気がしました。

もう一つが、アメリカの大学の公募の多さに改めて驚かされました。他の国と違うのは、小規模な私立大学がたくさんある点で、こういった大学は名門リベラルアーツカレッジの場合もあれば、地元の学生がいくような本当に小さな大学もあります。それに加えて、アイビーリーグやカリフォルニア大学システムのような研究大学、それとティーチングメインの州立大学の3種類があり、研究大学であれば研究に集中できそうなのですが、他の大学だとどうしてもティーチングが多めになる感じがします。

この点、地理的には離れますが、香港やシンガポールの大学は、アメリカの研究大学よりも少ない授業負担で、待遇もそれ以上に良い場合が多いので、アメリカから離れると言う、その一点を除けば、魅力的な選択肢なのかもしれません。特に、アシプロの最初の時期をそうした大学で過ごすというのは、戦略としてはありなのかもしれないなと思い始めました。現実問題として、香港やシンガポールの研究大学とアメリカのティーチングメインの大学を比べると、前者の方が研究はしやすいだろうと思います(ということを、ASAで香港の大学のリクルーターの先生に言われてグラっときました)。

少なくとも社会学では、アジアの大学は、アメリカの大学に人がとられることを見越しているからか、あるいは単にアメリカの大学よりも応募が少ないからなのか、早めに動いてきます。香港やシンガポールの大学はアメリカの研究大学とおおよそ同じスケジュールで公募を締め切っているのですが、先んじてこれらの大学からコンタクトがありました。早速、明日1件オンラインの面接があり、結果次第で10月中にジョブトークが現地であるようです。他の大学のジョブトークにも呼んでもらえそうで、ひとまずアプリケーションは呼んでもらえてることに安心しました。

順調に言った時の不安を今からする必要はないのですが、過去の例ではあまりにも順調に行きすぎると、アメリカの大学の結果が出る前に決断をする必要もあるようで、難しい状況に直面する可能性もあります。

August 31, 2023

アメリカ社会学ジョブマーケット:公募資料編

今週は滞在している東大社研の共同研究員室に缶詰になって、就活の資料を仕上げてました。ひとまず9月15日までの締切の大学の公募資料に取り組み、今日までに19校出願したところです。出願先は基本アメリカで、それ以外に香港、シンガポール、カナダ、それとオーストラリアが各1校という感じです。

先週から今週にかけて、同期やウィスコンシンの友達にアプリケーションを見てもらい、冗長だったステートメントだいぶりスッキリしました。アメリカだと本格的にジョブマに入る前年に軽く足を入れてみる「ソフトサーチ」をする人も珍しくありませんが、個人的にはソフトでもハードでも最初のアプリケーションを仕上げるのはけっこう大変かつストレスフルなので、一年目からハードにサーチしたほうがいい気がします。あとは周りの同期と一緒にマーケットに入ると、互いにサポートしあえて、そういう意味でもみんなで一緒に6年目に就活みたいなモデルがストレス過多な状況の中でも比較的楽かもしれません。

さて、前回の記事でも触れましたが、アメリカの大学の公募で要求される資料は、各大学によって微妙な差異はありますが、最大公約数的には基本、以下のようなパッケージになっています。

  • Cover letter
  • Research statement
  • Teaching statement
  • Writing sample(s)
  • Diversity statement

基本のパッケージさえできれば、一気に多くの大学に出願できるようになります。もちろん、各大学によってある程度はチューニングが必要です。自分の場合、ベースとなる公募資料を作り、それは分野を特に指定しないオープンサーチの公募に使います。ただ私の本命とするポストは人口学なので、人口学者を雇うと書いてあるところについては、各学部にテイラーされた出願書類を用意しました。これを「人口学バージョン」とするならば、もう一つ作ったのは「ティーチングカレッジバージョン」です。ベースになる公募書類は研究大学を想定して作っているのですが、(あまりフィットは良くないという自覚はありつつも)いくつかリベラルアーツカレッジにも応募しようと思っているので、そういう大学院生がいないようなところについては、大学院生とのコラボみたいなセンテンスを削って、学部生向けにこういう授業をしたいみたいなことを書きます。

今後、自分がもう一つ作る必要のあるバージョンは「計算社会科学バージョン」です。他の社会科学と同様社会学でもビッグデータを使った研究が増えてきています。そういう需要の変化を反映して、大学もcomputational social scienceと銘打った公募を出してきます。自分は正直に言うと、そうした時流に乗った研究をしているわけではないので、あまり勝ち目もないかなとは思うのですが、それでも学会でリクルーターと話す中で、現在進行系でできつつある分野なので、何をしている人がcomputationalで、どういう人だとcomputationalではないのか、採用する側もまだしっかりとした定義を持っていないと感じました。というわけで、少しチャンスがあるかなと思ってトライしてみる予定で、自分の研究の中でどちらかといえばビッグデータっぽい研究をもう少し重めに書いてみる申請書を後で作る必要があります。

公募資料の中で基本パッケージとは言えないものの、偶に要求されるという意味で若干厄介なのはサンプルシラバスです。具体的には、ティーチングメインのリベラルアーツカレッジなどでサンプルシラバスを(多いところでは2つ)要求します。シラバスづくりはなかなか一朝一夕ではできないので、時間を見つけて軽く作り込んでおくといいかもしれません。

今回は、公募資料を作成して始めて、自分が普段考えていなかったことに気付かされたので、少し書いておこうと思います。

研究計画書みたいなものは常日頃取り組んでいる研究と将来像を示せばいいので、シンプルにまとめる難しさを除けばそこまで宙に浮いた感はなく進められるのですが、こういう教育がしたいというteaching statementと、あとはこれはアメリカっぽいですが、自分がいかに大学のダイバーシティに貢献できるかを書くdiversity statementについては、要するに自分にはこういうことがしたいというアジェンダや、哲学みたいなものがあまりないことに気付かされました。

具体的にこれをしたみたいなことは簡単に書けても、同期からのコメントでもっとフィロソフィーが必要だと言われて、若干途方に暮れてしまいました。

研究大学の公募で見られるのは研究業績と将来のポテンシャルだと思うのですが、同時にアメリカでは大学というのが(実際はともかくとして理想の上では)社会を多様化させ、社会移動を促す制度であるべきという理解があるので、大学の教員は一研究者であると同時に、教育やその他活動を通じて社会を善くしていく人たるべきという思想があるんだなと思います。

August 21, 2023

アメリカ社会学ジョブマーケット・ASA編

 8月18日から21日までの4日間、フィラデルフィアで開催されたアメリカ社会学会(ASA)に参加してきた。コロナ禍を経て去年初めて参加した時には、そのサイズ感に圧倒されたのだが、就活中の身として参加した今年は、去年とはまた一味違った学会となった。

リクルーターと会って話すと何がいいのか?

アメリカの社会学は、経済学のように学会で最初のスクリーニングがあるわけではないので、就活中でも学会で誰かと会う必要はない。ただ、社会学の公募は9月から10月締切のところが多く、多くの学部がASAが運営するJob Bankのページに、学会前に公募情報を出している。その締切を意識しながら、サーチコミティーの人たちは、公募に出して欲しい人には声をかけてミーティングを設定することもあるし、あるいは逆に就活をしている側から、サーチコミティーの人たちと会えないかとミーティングを設定することがある。

自分は直前まで、リクルーターや公募を出している学部の人と話す必要性がよく理解できなかったのだが、実際に話してみると、「オープンとは書いてあるけど実は計量の人が欲しい」「今こういう授業をしてくれる人を募集しているから、teaching statementで自分が教えたいと思う授業に具体的にこう書くといい」みたいな情報を教えてくれる実利的なメリットはある。

実は会っても意味はない?

とはいっても、別にそういうtipsみたいなことを書いたからと言って、ジョブトークに呼ばれる確率が上がるかというと、そういうわけでもない気がする。オープンだけど実は計量と書いてあっても、別に今から質の人が量にスイッチすることもできないわけだし、こういう授業を教えたいという希望が真剣に考慮されるのは、ティーチングがメインの大学だけなのではないかと思う。このように実利的な情報だけを目当てにするのであれば、リクルーターの人と逐一あって話す必要はないのかもしれない。

自分もメンターから言われたが、この時点で就活の書類を中身を大きく変えることはできない。就活の大部分は、1ヶ月前にある学会の時点では、自分でコントロールできる部分はほとんどない。小手先でどうにかなるものでもないのであれば、別に学会でリクルーターの人と話しても、そこまで大きな違いにはならないだろう。

それでも会う方がいいのかも、しれない

それでも、リクルーター、あるいは公募をしている学部のファカルティと話すことで、名前を覚えてもらえる、cvを見てもらえる、そうやって何かしらポジティブな印象を残すことは、悪いことでもないだろうと思う。メンタル的にも、CVをみて、お世辞でもcompetitiveだよと言われれば、慰め程度にしかならないかもしれないが、全く戦えないわけではないと思えるだろう。というわけで、会ったら会ったで、得るものもあるのだと思った。

個人的にリクルーターや同じ学部にいる人とあって良かったと振り返って思うのは、就活の場面で話されるセリフというか、話し方、スクリプトみたいなものを直接肌で学習できた点だった。就活をしている人間としてのdispositionをつけるというか、ある程度話をスムーズに進めるためには、頭の中にセリフを入れておいた方がいい。例えば、自分が研究している内容を簡単にまとめて紹介して、その後に公募を出している学部に就職したらどういうことができそうかみたいな(流石にそこまでは言わなくてもいいかもしれないが)ことは、会話の中では出てくるので、その場で考えるよりは、ある程度セリフみたいに頭に入れておくことで、緊張せず話せるはずだ。初めて会うファカルティと、1対1で面談しても気まずくない空気を作れる、スモールトーク力を磨くとでも言えばいいのだろうか。

あとは気持ちを切り替えて、就活を有名な先生と簡単に会える機会と考えるといいかもしれない。目の前にいたら恐れ多くて話しかけられないような先生にでも、就活のことで伺いたいことがあるのですが、と言えば、割とサクッとミーティングに応じてくれる。そして、あくまで雇う人-雇われる人という関係性はあるが、「学生」ではなく、将来「同僚」になるかもしれない人として、対等にみて話してもらえる気がする。そういうことを書きながら学会中の面談を振り返ると、あまり就活の話ばかりせずに、もう少し研究内容について話す時間を作ってから就活の話をした方がよかったかもしれない。結局、人を雇う時には研究業績のようなメトリック的な部分も大事だが、決め手は「この人と同僚になっていいと思うか」だと思うので、その点は忘れない方がよい。

ところで、私はどうしたのか

今回は、4月にあったPAA(アメリカ人口学会)でもリーチアウトしてくれた某中西部の州立大の人が公募が出たことを直前にメールしてくれたので、再び話した。脈アリ?なのかもしれないが、ちょっと公募が特殊で、書類上の特殊性に騙されずに出してほしいという念押しをしてくれたので、おそらく自分以外にも複数、リーチアウトしているだろうと思う。他にも、報告したセッションの討論者の人が所属する大学が、計量社会学者を公募していたので、セッション後に時間を作ってもらって話した。オーガナイザーの人が所属する大学も、人口学者を公募しているので話そうかと思ったが、すでにプリンストンにトークに来てもらった時に話したこともあって、流れた。ただ、一応もう一回話そうかなと思う。そのほか、個人的に気になっている大学(UCLA、OSU、HKUST)の人とも話した。合計すると6名くらいになるが、果たしてこれが多いのか少ないのかはわからない。

ネットワーキングあれこれ

とりあえず、初めて会う人と就活というコンテクストで話すのはとても気苦労するので、できることなら事前に知り合いになってた方がストレスは少ないだろうと思った。あとは、直前になってこういう公募が出てるよ、みたいな情報があるので、ネットワークは広く持っておくこと、およびその時に公募を出している学部の先生を紹介してくれるような指導教員やメンターを持つことが肝要だなと思った。

もちろん、そういうコネ目当てで人と知り合うことほど滑稽なこともないので、面倒見の良い先生に指導してもらい、最初は学会などでそういう人と一緒に行動しながら、人を紹介してもらう、そして次はそこで知り合った人の友達や同僚を知る、みたいな感じで少しずつ、オープンマインドな姿勢で人と知り合いことが大切だなと思う。

あとはASAのセクションは必ずセクションごとのレセプションを開催しているので、そこに足を運んで、地道に新しい人と話をすることが大切。学会は旧友と会うところでもあるが、知り合いと話しているばかりだけではなく、自然に生じた新しい人との出会いは大切にした方がいい(旧友と話していたら、その友達や同僚と知り合いになることも多いが)。あるいは、ASAのセクションによっては、学生とファカルティをマッチングするようなメンター・メンティーイベントを企画しているところもあるので、そういうのを利用することも大切だろう。

とはいっても、一番大切なのは、ちゃんと定期的に参加する学会をいくつか持ち、そこで(できる限り口頭報告のセッションで)報告して、司会や討論者、質問してくれた人、同じパネルの報告者と知り合いになることだ。我々はあくまで研究者なので、研究が面白くないと話したいと思ってもらえない。面白い研究をして、その途中経過をしっかり学会で報告すること、そうすれば自然と人は集まってくるだろう。

August 12, 2023

アメリカ社会学ジョブマーケット・序

 アメリカの大学院生活も6年目を迎えました。今年度で卒業する見込みです。卒業するということは、就活をしなければなりません。正確には、アメリカではまず就活をして、就職先が決まってから博論を仕上げる段階に入るイメージです。次につく仕事がない状態で路頭に迷うことは避けたいですからね。

就職市場のことを、英語では job marketと言います。「就活中なう」のことはon the job marketと言います。したがって私は、現在進行系で on the job marketです。ちなみに、アメリカでは略して on the marketみたいにいうときもありますが、イギリス人の友達に、それって売春婦みたいと言われたので、もしかすると時と場合によっては略さないほうが誤解を招かず、適切かもしれません。

ジョブマの準備を本格的に始めてからまだ1ヶ月程度ですが、すでにstressed outしています。アメリカの博士課程の出願のときに比べても、ストレスは大きい気がします。正確には、大学院出願とは全く別の種類のストレスがあります。

ジョブマ関連のストレスの主要因は、その不透明性です。いつ、どこの大学で、どのポストが募集されるのか、わかりません。もちろん、噂レベルで今年XX大学がYYの公募出すみたいだよみたいな話は回ってきますが、私はすでに自分と相性の良い公募の噂が2つ、結局実現せずに終わりましたので、淡い期待は持たないのが吉だなと思います。これに対して、大学院の出願は、どこに出せるかどうかで悩むことはないので、その意味ではだいぶ精神的に楽な気がします。

ジョブマになくて大学院出願にあるストレスは、切迫感というか、その時その時でやれGREやらねば、やれTOEFL受けねば、やれ推薦状書いてもらわねば、みたいなステップが多いところかもしれません。それは裏を返すと、出願中にまだ自分の手で変えられる部分が大きいことを意味していると思います。これに対して、ジョブマでは、基本的に自分の手で変えられる部分がほぼありません。一般的に、今のアメリカの社会学の就活で必要な出願書類は以下のようになっています。

  • Cover letter(自分という候補者の要約という感じ。自分は書類の中では一番時間かけて作ってます)
  • Research statement(研究計画、今こういう研究してて、これが成果として出てて、これからこれをしたいですみたいな資料)
  • Teaching statement(授業計画、今までどういう授業のTAをして、自分が教えるとなったらこういう授業したいですみたいな資料)
  • Diversity statement(自分がいかに大学や学部の多様性に貢献できるかを書く資料)
  • Writing sample(既刊・未刊を問わず、論文3本が多いが1-2本も珍しくない。単著でも共著でもいいが、できれば単著がよい)
  • CV(履歴書)
  • Recommendation letter(推薦状、基本3通)
  • (Sample Syllabi)リベラルアーツカレッジは必要なこともある

この中で、最も大切なもの(だと自分が考える)は、(推薦状の次、あるいは同じくらいに)CVだろうと思います。CVは博士課程のうちに出した成果のまとめで、今更何かを加えることはできません。推薦状、誰にお願いしようかみたいな焦りも、博論コミティに入っている先生になるため、基本ないはずです。

そういう意味では、ジョブマの結果は、ジョブマが始まる前には、おおよそ決している感もあります。研究計画(research statement)やteaching statement, diversity statementといったstatement系の資料も提出を求められますが、正直、statementで何の差がつくかはわかりません。言い換えると、CV上で出た差を埋めるくらいの一発逆転が他のstatementでできるようには思いません。もちろん、だからといって手を抜いてもいいわけではないのが現実で、正直どれくらい時間をかけてstatementを書けばいいのか、皆目検討がつきません。私が感じるジョブマのもう一つのストレスはこれです。徒労感というか、そこまでサブスタンティブに意味のない(というと怒られるかもしれませんが)書類を書かざる得ないところです。

もう一つのストレスは、自分が出せる公募の少なさです。アメリカのジョブマーケットは、基本的にASA(アメリカ社会学会)のjob bankというところにポストされます。毎日、新しい公募があるかを見ているのですが、自分が出せそうな公募は、正味4分の1くらいです。自分が出せるのはassistant professorないしpostdocのポジションですが、前者の場合、公募の種類は大きく分けてオープンサーチ(どの研究テーマの人でもOK, Open to All Specialty Areas)か、特定のトピック・手法を専門にしている人の二つがあります。前者のようなサーチは少なく、あってもUCバークリーみたいな手に届かなさそうなトップスクールか、ティーチングメインの大学だったりします。

多くの大学は、今年はこういう分野の人を採用したい、という方針があり、それを公募の際に書いておきます。それは恐らくアメリカの社会学のトレンドを反映していると思うのですが、ASA job bankで見ている限り、公募で言及される多いテーマ(=人気のテーマ)は順に(1)race、(2)climate、(3)computational science、それともともと多いですがhealthとcriminal justice(後者はraceとの関係がかなり近い)あたりです。トピックで要約してしまうと、「ビッグデータを使ってハリケーン・カトリーナが白人と黒人の健康格差に与える影響」みたいなことを研究していると、体験では出せる公募の数が3倍くらいに増える気がします(笑)。一応、人口学者を公募している大学も3つくらいあって、現実的にはそのあたりで勝負できるのかなと思うのですが、他のポストは自分と相性が良くても、競争が激しいところが多いので(例:計量社会学)、いまいち自分でもいい勝負できるかも?とは思えないのが実際です。

今までとうとうとアメリカのジョブマの愚痴?を書いてきましたが、それでも日本のジョブマよりもいいと思えるところはあって(例:大学が求める提出資料が基本統一されている、締切はASA後の9-10月に集中)、日本で就活をしていたら、ストレスを抱えていたかもしれません。

ジョブマが終わるまでに、このブログにアメリカの社会学ジョブマ事情をまとめてみたいと思います。

もやもや

 絶賛就活中です(正確には、就活に必要な書類を仕上げている段階)。アメリカのジョブマ事情は色々複雑で、社会学については日本語で読めるものも少ないと思うので、後でまとめておこうと思います。ちなみに僕はアメリカメインの就活をしています。

さて、今日は違う話。午前中に、アメリカの社会学博士課程に出したいという人の話を聞いていました。この夏で3人目でして、最近は留学しようとする人が増えているのかもしれません。

別にこちらが指定するまでもなく、昔書いた大学院留学のあれこれのブログ記事を読んできてくれて恐縮なのですが、流石に5年前のブログでこう書かれていましたか、といわれても、ちょっと今もそう考えているかは自信がありません。でも意外と、5年前も今も、似たようなことを考えています。少し変わったかなと思う点を上げるとすれば、今はもうすんなり、シカゴの社会科学マスターとかに入ってそこでいい成績とるのが、日本の大学院でそういうパイプラインがないことを考えると、現実的かつ簡単な策なのかなと思います。

学部からストレートは社会学でも徐々に難しくなっている印象はあって、この傾向はアメリカの学部を出ていない人は尚更なので、日本あるいは海外で修士2年に、アメリカで6―8年博士課程にいると、あっという間に30歳を超えてしまいますので、割に合わないと考える人がいるのも首肯できます。

もう一つ変わったかもしれないなと思うのは、別にアメリカの大学院だけが選択肢ではないだろうというところかもしれません。特に日本だけのキャリアを考えるのであれば、東大とかに(ぬるっと)入って、きちんと査読付き論文をコンスタントに出していれば、そこまで苦労はしないと思います(実際に日本での就活を経験してませんのでなんとも言えませんが、僕の周りは割と順調に就職しています、場所を選ばなければ)。日本なら修士2年、博士3年で卒業することも十分に可能なので、わざわざアメリカのトップスクールを目指すリスクを負う必要もないのかもしれないと思います。

割と似たようなモヤモヤ感は少し違いますが、2年前にも思っていました

https://on-sociology.blogspot.com/2021/09/blog-post_27.html

July 10, 2023

上智大学サマーセッション

 先週の火曜から今日まで上智大学の留学生サマーセッションでEducation in Japanという授業を4回ほど教えていました。僕の担当は人口変動も加味した高等教育の変化やジェンダーの話で、合わせて学校から仕事への以降と今日は子育てと学校外教育の話をしました。話をしながら気づいたのですが、日本の高等教育の話をするときに、一本筋を通すとすると、privatizationだなと思います。日本は教育への公的支出が小さく、大学も私立セクターが8割を占め、生き残りをかけて私立セクターはあれやこれやと学生をリクルートし、学校外教育が当たり前のように受験のために利用されます。Simon & SchusterのLearning Gapを引用しながらtestocracyの話も混ぜつつ、日本あるいは東アジアでは、教育の公的支出が少ない割に、なぜ国際学力調査のスコアが高いのか、みたいな話もすればよかったなと思います。 

学生はアメリカ、カナダ、中国、シンガポール、オーストラリアは多様で、学生がそこまでアグレッシブに質問してこなかったので、あなたの社会ではどうと聞きまくって時間を消化しました。日本の学生は静かで、アメリカの学生はアグレッシブみたいなステレオタイプを持っていたのですが、アメリカというかプリンストンの学部生が極めてアグレッシブなのは、もうそうしつけられてきているのと、後は成績を取るためにそうせざるを得ないんだろうと思います。今回の留学生は成績を気にする必要もなかったので、予想していたよりも静かでした。学生さんみんないい人で教えやすかったです、いい経験になりました。

June 22, 2023

プリンストン大学サマースクールの引率

 5月末から一時帰国してまして、6月はじめから今日まで、プリンストン大学の学部生のサマースクールの引率をしていました。学部生は15人ほど、選抜を経ているのでモチベーションも高く、授業では毎日のように鋭い質問をしてくれました。彼らは6週間日本にいて、前半の3週間で現代日本社会、後半の3週間で現代中国社会を学ぶことになっています。私はTAみたいなポジションで来ていて、インストラクターは私の指導教員、中国パートも社会学部の先生が教えます。現代日本パートが終わったので、私は3週間でお役御免となります。

航空券代、宿代、食費に加えてサラリーも出るので、流石に文句は言えないわけですが、それでも3週間、学生の引率をするのは大変でした。研究は、ほとんどできなかった感じです。合間に東大や京大の授業でゲスト講義をさせてもらったり、去年からのインタビュー調査の続きをしたりもしていたので、それもあって研究にはほとんど時間を取れませんでした。久しぶりに論文のファイルを開くと、結構書けなくなっていることに気づきます。

さて、授業の方ですが、色々と気づくことがありました。平日にある授業は9時半から11時半の2時間で、金曜日はフィールドワークなどが入ったので実質12日で24時間、学期の授業が週50分2コマの13回で1300分で22時間弱なので、ボリュームとしては大体1学期分の授業と同じでした。カバーしたのは戦後以降で、高度経済成長とバブル崩壊に始まり、具体的に扱かったのは日本的雇用システム、少子高齢化、家族、教育、ジェンダー、地域、移民、日本政治、環境、災害などでした。

現代日本社会論という分野を教えるときに、何を教えるのかはかなり難しいところがあり、それは一つには教える側の専門性の問題があります。例えば私なら雇用や家族、人口、移民、教育、ジェンダーなどの話はできますが、日本政治や経済の専門家ではないので、そのあたりは触れざる得ないけれども、自信がないところになります。今回は、そういうところは東大の先生にお願いしてゲスト講義をしてもらいました。

そうやってある程度は自分の弱い部分は補えるのですが、もう一つ難しいのは一本筋を通すというか、理想としてはそれぞれのトピックを関連させ合いたいわけです。例えば高齢化のスピードには地域差があり、その背景には若年層の都市への移動があるわけですが、なぜ若年層が大都市圏に移動するかというと、日本の戦後復興が背景にあるわけです。最初に日本の高度経済成長の話をしていれば、高齢化の地域間格差の話をするときに、一つの帰結として、すんなり説明できます。

一方で、トピックによってはそれ自体としては重要だけれども、他のテーマと関連させづらいというものもあり、そういうトピックはなんというか、少し浮くわけです、もちろん浮くのを良しとして大事だから扱うという考えもありますが。例えば環境問題でいえば、公害は高度経済成長の影の部分として扱えますが、個人的にはそれは日本「史」の問題としては触れておかねばならないと思いますが、日本「社会」論としては、どう位置づければいいのか、少し難しいと思います。今回は扱いませんでしたが、学生たちの多くはジブリに代表される日本のポピュラー文化に興味を持っているのですが、例えば日本のアニメ産業を日本社会論としてどのように位置づければいいのかは、ちょっとわかりません。

そういう事を考えたときに、現代日本社会を体系的に論じる上では、やはり経済、雇用、家族、教育、政治、人口(少子高齢化、移民)、地域、ジェンダーあたりは触れざるを得ません。戦後日本は、第一にはアジアで初めて経済大国になったという歴史があり、それを可能にしたのは何なのか(雇用、家族、政治、教育といった制度)、あるいはその帰結(都市と地方の格差、一億総中流)、そして失われた30年を経て緩やかに衰退する国になっている点が基本のプロットになってきます。

これで一本筋が通ったとして、その後に何を加えるのかは、人によって好みが分かれるところなのかもしれません。今回は環境問題や災害を入れましたが、学生からの質問を見ていると、宗教、社会保障、対外関係などは入れるべきだったなと思います。宗教は日本人は無宗教に見えて、寺や神社には行くし、宗教政党が政権の一翼を担っていて、宗教に絡んだ要因で首相が殺されたりしています。学生たちはそのギャップをどのように理解したらいいのか、何度も聞いてきます。社会保障は政治や人口の回で多少触れるわけですが、そもそも福祉や医療の制度がアメリカとはかなり違うので、まるまる1回取って教えるべきだったなと思います。対外関係は思い切って諦めて国内の話だけにできるような気もするのですが、人口や移民の話をする時に、在日韓国人、中国人、あるいは日系ブラジル人の話に触れるので、国同士の関係に関するレクチャーは必要だったと思います。ただそうすると、国内の話でも歴史教科書やヘイトスピーチ、靖国参拝、拉致問題、色々と政治や教育、社会運動の話が加わってくるので、徐々に複雑になってきます。

このように考え出すと、あれもこれも、となってしまうのですが、そうすると体系性が損なわれていくのと、あとは現実問題として自分一人で教えられなくなるという問題が出てきます。そういう意味で、私の指導教員は、アメリカでは日本の少子高齢化に関する一流の専門家として認知されているわけですが、今回に関しては超一流の現代日本社会論のインストラクターでした。学生からの質問へのリプライは見事で、やはりいったんアメリカ人として素朴に思う疑問に対する理解を挟んでから、実は日本ではこうでみたいな説明が、学生たちにはしっくりくるみたいです。自分はそのワンクッションがまだ十分ではないので、アメリカで現代日本社会論を教えることになると、なかなか大変だろうなと思います。

May 12, 2023

退職記念イベントで思ったこと

Open mindedness 

Community building here and there 

Do work that has positive impacts on the world 

Understand what’s happening behind the number and on ground

February 10, 2023

新学期二週目

プリンストンでは今週から春学期が本格的に始まりました(二週目)。月曜から金曜の間に、ランチセミナーなどフォーマルなトークが3つ、スピーカーとの面談が1件、インフォーマルなワーキンググループが3つ(社会ゲノミクス、家族人口学、階層、聞いた発表計5つ)、教員との面談が3件、外でのディナーが4回(フェローシップ関係、東大からきてるビジターのウェルカム、日本研究所、ラトガース大学でのセミナー後のディナー)。あとは人口学研究所に所属する1年生向けイベントで話し、コーホートでやってるco-working groupに2日とも顔を出し、研究としては計画中のサーベイ実験のプリレジを書き、アメリカ社会学会に提出するアブストを二つ進め、進めているプロジェクトの分析を進め、勧められた本や論文を読んだりしていましたが、学会の宿や飛行機をとっているうちに査読依頼がきたのでそれを承諾し(今年はきっかり10日に1回ペースで査読依頼がきて恐ろしい)、日本語の事典の執筆依頼が1件きてそれを承諾しようとしているところです。隔週のミーティングもありますが、来週からは教育社会学のランチセミナーが始まったり、社会学部が関わるジョブトークや日本研究所のレセプションもあるので忙しさは似たり寄ったりかもしれません。

結局コミットしているものが多すぎるんだと思いますが、改めて優先順位をつけないとろくに研究ができなくなるかもしれない恐れを感じます。それでも、それぞれのイベントで学ぶことはたくさんあり、毎日が知的刺激に満ちています。

今週で1番の思い出は人口学研究所のランチセミナーにアネット・ラローさんがきてくれて、個別に面談する時間をいただけたことでした。流石の人気で30分程度しか時間はありませんでしたが、今進めているアメリカのアジア系の離婚率の低さに関する論文、及び博論に関連する難関大進学のジェンダー差の背景を検討したインタビュー調査の話に建設的なフィードバックをいただけました。分析からわかったことを述べると、すぐ関連する著書の名前を著者名と一緒にはっきりと教えてくれて、その明晰さに少し驚きました。

あっという間の1週間でしたが、これこそプリンストンで過ごせることの贅沢さだと思うので、研究との両立を図りつつ、ここで得た学びを何かの形で還元していきたいと思います。写真は日本研究所のチームメンバーとのディナーでの1枚。

February 2, 2023

新学期4日目

 7時起きて、ジムでランニング。のはずが親に軽く電話かけたら弟の宿題を手伝わされる。シャワーを浴びて確定申告作業。その後双子の分析と11時からの指導教員とのミーティングの資料用意。

January 31, 2023

新学期2日目

 朝8時40分ごろ起きて、食洗機をつける。アメリカーノを飲みながら、今日開始の人口学セミナーのスピーカーで来る人の論文を読む。

彼は自分より3歳くらいしか離れていないのに、もうハーバードのassociated profで、毎年のようにinnovativeな研究をトップジャーナルに出し続けている。階層研究の若手ではトップの研究者の人だが、知り合いだったので個別のミーティングはそこまで緊張しなかった。けど、ジョブマが近くなってきたからか、時おり自分が試されているような感覚になり、11時から彼とミーティングを終える頃には、結構疲れた。12時からトーク。

ミーティングでは、彼が最近進めているcausal mediationの話、人口学研究所のポスドクの話、自分の論文の話などをした。5年目も半ばをすぎ、ようやくこうした外部スピーカーとの会話にも慣れてきた感はある。最近どういう研究をしてるか話して意見を求め、その人の研究にも質問したり、自分が来年ジョブマに出るアピールもして、そういうのを限られた時間の中で配分しつつ会話にも集中するのは認知的には結構負担がある。今日は12時50分に会場に連れて行くようにアドミンの人に言われていたことを意識しすぎて、45分くらいに終わってしまい、逆に自分で行くからいいよと言われてしまったのがちょっと反省点。

ジョブトークに呼ばれたら、こういう会話をずっとするのだろうと思うと、個別のミーティングもインフォーマルなトレーニングなのかなと思った。


January 30, 2023

新学期

 今日から新学期が始まる。自分にとっては、残り3学期しかないと考えると、割とプリンストンでの日々もあっという間だったなと思える。

今日は休日読んだ本で引用されていた、自分の研究に関係しそうな文献を読んでいた。および、午前中に研究助成を申請。今回はあまり自信ない。

お昼はカレー。コーヒーを飲み、歯磨き、昼寝。genetic selectionとasian americansの論文を少し、進める。

January 16, 2023

いきなり条件付き採択

今日は午前11時から本郷の院生の人とミーティングがあったので、午前10時くらいに本三のスタバで作業することにした。本郷三丁目の駅を出てスマホをチェックすると、某人口学のトップジャーナルDから、査読結果のお知らせが来ていた。6月に投稿したもので、半年以上が経っていたものだった。編集委員会が新しい大学に移ったタイミングだったので、それが理由で遅れているという話は聞いていたが、それにしても遅いのでそろそろチェックを入れようかと思っていたところだった。

論文のアイデアは非常にシンプル。家族規範が強い東アジアでは、きょうだい上の地位が将来の世代間ケアのシグナルとして機能していると、まず考える。例えば「長男の嫁」という言葉が日本にはあるが、これは長男と結婚する場合は、(昔は)義理の親と同居する必要があるため、次男や三男と結婚する場合と比べて様々な負担やストレスが生じやすいことを含意している。流石に結婚してすぐ親と同居するカップルは少なくなっているが、それでも日本では未だに子どもが将来のどこかで、親をケアすることへの期待が強い。そうした社会―これは日本以外でも、広く東アジアなどに当てはまると考えられる―では、長男や一人っ子といった将来のケア役割が期待される(ケア役割はジェンダー非対称なため、女性の方がこのリスクを認知しやすいだろう)人との結婚は避けられるのではないか。さらに言えば、長男と男きょうだいのいない長女、あるいは一人っ子同士の結婚は生じにくいのではないか。仮に少子化によってきょうだいの数が減ることでそうした地位の子どもが増えているとすれば、そのきょうだい構成の変化が結婚率の減少を説明するのではないか。論文ではこうした問いを検証している。いってみれば、少子化によってさらなる少子化が招かれると考えるlow fertility trapに近い議論だ。

論文の紹介が長くなった。届いたメールに添付されたファイルを、恐る恐る開いた自分に戻る。この論文、投稿時点ではそこまで自信がなく、ややダメ元で出していたのだが、結果はまさかのR&R、を通り越して奇跡のconditionally accepted。正直、ちょっと信じられない。どんなによくてもmajor revisionかと思っていたら、3人のレビュアーのうち、2人が最初の原稿でaccept、もう1人のレビュアーがR&Rという内容で、いきなり条件付き採択という、かなり稀なエディター判断になった。どれくらい稀かと言うと、周りに一発目から条件付き採択をもらった人を知らないくらい稀だ。共著で入ってくれた指導教員も、28年間の研究者生活で初めてだと言っていた。レポートを読むと、上記のアイデアが人口学的に高く評価されたらしい。

今年ジョブマーケットに入る自分にとっては、ラッキーすぎる展開である。今年の運をすでに使い果たしてしまっていないか、少し不安になる。

January 9, 2023

手に職

 女子受験生、理系志向くっきり…コロナ禍で「手に職」求める : 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/daigakunyushi/20230107-OYT1T50045/


データから見ても、やっぱり女性の方が手に職志向は強いんですよね、職業選ぶときに手に職をつけられるかを重視すると答える傾向がある。おそらく親から言われるんだろうと思います、女の子は手に職つけたほうがいいと。手に職には職人的な意味もありますが、専門・大卒の人にとっては、手に職=資格職になるのだと思います。

理論的にはポリエコのスキルレジームに依拠して、Estevez-Abeさんがskill portability/atrophy rateへの選好が男女で異なると言っています。要するに結婚出産で労働市場から退出しやすい女性は、組織間で移転可能、かつ年月が経っても目減りしないスキルを選好すると。資格職はそれらが高いんでしょう。

ちょうど、共著で手に職志向の男女差と、手に職志向が希望職業や進路選択とどう関係しているのかを分析しているのですが、予想通り手に職志向の強い人は資格職を希望しやすく、専攻も看護や薬学を希望しがちです。各職業のskill portabilityやatropy rateを定量的に測れたら面白いなと思いますね。

January 8, 2023

今年の抱負?(という名の現時点でのto-do list)

書くまで気づきませんでしたが、昨年は抱負を書いていなかったようです。歳を取るにつれて、仕事のスパンが綺麗に1年で切れることが少ないことに気づいてきたからかもしれません。

とはいえ、年単位の目標もあるはずで、今年の私に関しては、ジョブマーケットに入って就活をするので、そこで納得いく成果を得ることが最大の目標になります。というわけで、新年の抱負というよりは、現時点での短期から中期のto do listみたいになりますが、つらつら(主に何をしなくてはいけないか忘れがちな)自分のために書いておきます。

書き終えてからふと、自分もだんだん職業研究者になってきたのかもしれないと思いました。研究をしていて楽しい場面もあるのですが、研究のサイズが大きくなると事務的な仕事だったり人との関係によって生じる仕事も増えてきます。研究へのモチベーションを失わずに、楽しく、健康に過ごしていきたいですね。

0. 昨年の振り返り

あまり振り返る暇もなかったので、簡単に昨年印象に残った出来事を思い返してみると、やはり一番大きいのは、人口学のトップジャーナル(Demography)に単著を出せたことだと思います。注目度も違って、何人かの研究者から直接問い合わせが来たりしました。ジョブ魔に向けてもpositive signalだと思っています。

目立ったrecognitionとしては、上の論文がASAのSociology of Population Section Student Paper AwardのHonorable Mentionに選ばれました。それと、性別職域分離に関する論文が日本人口学会の優秀論文賞を受賞しました。プリンストン大学からは、Harold W. Dodds Honorific Fellowshipというcompetitive fellowshipを頂きました。

研究面では、やはり夏のインタビュー調査が思い出に残っています。高校生の人に直接話を伺うのは、蒙が啓かれる経験の連続でした。この調査が発端となって、いくつもの研究アイデアが出てきて、今自分の首を絞めています。なお、この調査は村田学術研究財団からの助成があって可能になりました。研究の暫定的な結果を学会だけでなく、関学や上智の研究会で報告できたのもよい思い出です。

9月に日本教育社会学会で研究成果の一部を報告していたところ、学会に参加されていた朝日新聞の記者の方からメールを頂き、後日取材を受けたものが記事になりました。自宅には当日の朝日新聞が5部、新聞のまま届いたのが思い出に残っています。

2月には、ひょんなことから中公の編集者の方と繋がり、新書を書く運びになりました。ちょっと停滞気味ですが、再開したいと思っています。

共同研究の関係で、東京財団政策研究所との関わりも始まりました。日本滞在中の研究場所確保問題が、多少解決してきた感じがします。

最後に一つ思い出に残っているのは、プリンストンで博論コミティにも入ってもらっているYu Xie教授と個人的な関係を築き始めたことです。教授は自分の分野で世界のトップにいる人で、セミナーでのコメントも毎回鋭く、自分にとっては雲の上にいる存在だったのですが、色々あって彼がプリンストンの大学院生を集めて主宰している階層論に関するセミナー(日本で言うところのゼミに近い感じ)のオーガナイザーの仕事を始めました。これまではセミナーで軽く挨拶するくらいだったのですが、一緒に関わる機会が増えたことで、話す機会も増えました。人間的に幼い自分の弱いところをきちんと指摘してもらえたりして、指導教員がサバティカルで不在の間、とてもお世話になりました。

1. 就職活動

2023年度からプリンストン大学の6年生になります。社会学の標準的には、6年目でジョブマーケットなので、私もその慣習に従っています。ただ、プリンストンの居心地がよいのと、ファンディングもなくはなさそうなので、最近は(え、就活ってめんどくない?…と思って)7年目もありかなと思い始めています。ひとまずマーケットには出ますが(イギリス人の友人に、I will be on the market next yearといったら、それ売春みたいなニュアンスがあると言われたので、誤解を招きたくない人はきちんとjob marketといったほうがいいかもしれません)、APについては自分が就職したいと思うところだけを出していくつもりです(もちろん、来年どういうポジションが出るかにもよります)。うまくAPのマーケットがwork outしなかった場合には、アメリカやイギリスのポスドク、あるいはアジアや日本のポジションも考える可能性があります。

一応、先述の通り人口学のトップジャーナルに単著を出したので、CV的には不利にはならないと思いますが、自分が就職したいと思う大学については、それで大きな差はつかないだろうと思っています。今年中にトップジャーナルへのR&Rをもう1つ、できればもう2つくらい欲しいのが正直なところです。友人からは僕は本数があるから大丈夫みたいに冷やかされたりしますが、量は自分が就職したいと思うような大学ではほとんど意味を成さないと予想されるので、トップジャーナルへのポテンシャルがある論文に時間を割く必要があると考えています。ただ、トップジャーナルに載るような論文にしか時間を使わないのも、自分のポリシーに反するところはあるので、そのあたりはいい塩梅を目指していきたいです。

はぐらかして書いていますが、「自分が就職したいと思うような大学」というのは意外と一言で書くのが難しいところがあります。シンプルに言えば、人口学と社会階層の研究が強いアメリカの社会学部で、自分が尊敬している研究者が複数在籍している大学になります。できれば、というところでいえば(実質的に前述の条件でソートするとほぼこの条件は満たされますが)大学院のプログラムもcompetitiveな場所になります。もっと欲を言えば、日本研究が強くて、日本への直行便があるような空港に近く、アジア系のグロサリーがあって、できれば大都市に近いところ、みたいな条件をあげて選り好みをすると10個くらいしかないわけですが、就活でそんな悠長なことは言ってられないので、実質的には自分にとってのdream schoolへの5年以内の就職可能性ができるだけ高い大学、になると思います。1年目のマーケットでいきなり自分にとって理想の大学に就職する可能性は低く、プリンストンの先生からは初職のマーケットは5年スパンで考えるべきと言われました。最初に仕事につく大学が自分にとって理想ではなくとも、次に理想の場所に移れるための環境としてよいかどうかが、隠れた出願基準になっています。逆に言えば、そうしたところに行くチャンスを(プリンストンに残るよりも)高めることができるのであれば、世界中どの大学も考慮してもいいと思っています。

2. 研究
研究は博士後を見据えた難関大進学のジェンダー差に関するプロジェクトを昨年はじめました。最近は、それ関連の仕事が多いです。ひとまず、査読中のものも含めて現在進行中のプロジェクトを羅列しておきますと、

難関大進学のジェンダー差
  1. Meritocracy trap (夏に行ったインタビューの分析)単著
  2. Exam-retaking as a source of gender stratification (ベネッセのデータを使った浪人の論文、1と組み合わせてJMPになるかも、リジェクト後棚上げ)単著
  3. 進学校に在籍する高校生の進路選択の男女差(インタビューの概要と簡単な分析、査読中)共著
  4. 公立男女別学校からみる進路指導の変容(学校文化と進路指導の変化の関係、投稿予定)共著
  5. 国公立大学における女子学生比率と難易度の関係(査読中)共著、第一著者
  6. Why few women apply to selective colleges in Japan: Experimental approach(サーベイ実験を用いて子どもの大学受験に対する親の考えが子どもの性別で異なるかを検証、本実験前)共著、第一著者
  7. Exam retaking and family formation outcomes(浪人した場合に女性だけ結婚が遅くなるのはなぜなのか、学会アブスト)共著
  8. Vocational aspiration as a source of gender segregation(男女の手に職志向と進路選択の関係、学会アブスト)共著
  9. 難関大学に進学する女性が少ないのはなぜか?(二次分析研究会の報告書で棚上げ状態、リフレーミングして投稿したい)
  10. 進学校を対象にした学校パネル調査(企画段階、申請書を書き上げる)
  11. 進学校を卒業した男女への追跡調査(昨年のインタビュー調査のフォローアップ、申請書を書いている)
  12. 高校から大学への移行過程に関するマクロデータのハーモナイゼーション(企画段階、来年度より始めたい)
家族人口学
  1. Testing Marriage Market Mismatch Hypothesis: Experimental Approach(サーベイ実験のフレームワークでミスマッチ仮説の検証、パイロット前)共著、第一著者
  2. Exploring Asian Americans' Family Stability(アジア系の離婚率はなぜ低いのか、PAAで発表)共著、第一著者
  3. Revisiting the Relationship between Marriage and Health in Japan(結婚への健康のセレクションの再検証、長いこと棚上げ)共著、第一著者
  4. Family Norms and Declining First Marriage Rates(きょうだい構成の変化と結婚率の関係、投稿中)共著、第一著者
  5. Long-term Consequences of Early Career Disadvantage on Fertility(正規・非正規の間の結婚と出生格差、投稿中)共著、責任著者
  6. 人口動態調査を用いた国際移民と家族形成の分析(データ申請段階)共著
日本の子育て格差(来年度、東大社研の二次分析研究会をオーガナイズする予定で、そこで扱う研究)
  1. 母親の地域移動効果の再検証(都会に住んだ経験のある母親は教育期待に対する女子バイアスが少ないという仮説の再検証、分析途中)単著
  2. Private Supplementary Education as Parenting Outsourcing(塾利用と母親のワークライフバランス、学会アブスト)単著
社会ゲノミクス
  1. Horizontal Educational Stratification through a Genetic Lens(ゲノムデータを使った教育の質的階層性と社会移動の分析、投稿前)共著、第一著者
  2. Demography of Genetic Ancestry(遺伝子データを使った人種と格差の人口学的分析、分析中)共著、第一著者
  3. Education GWAS in Japan(genequest社とのコラボ、ゲノムデータを使った教育年数と遺伝の関連)共著
新書
  • 日本の家族格差に関する新書を2月くらいにオファーいただいて書き進めていたのですが、2章書いて棚上げ状態、今年のうちに脱稿したいと考えています。
その他、頼まれ仕事(優先順位は低め)
  1. 地熱
  2. 低体重出生と宗教
  3. Gender Differences in the Impact of the COVID-19 Pandemic on Psychological Well-being
と大体25くらいのプロジェクトに関わっています(その中には調査企画段階のものもあるので、実際に論文単位にブレークダウンできているものは20ちょっと)。これらを数年かけて終わらせるのが目標です。今年中に出るものもあれば、3−4年かかるものもあると思います。

3. その他
  • 学会発表:今年は以下の学会に行こうと思っています。行き過ぎなのは自覚しています。
    • 3月 AAS(アジア学会、ボストン)
    • 4月 PAA(ニューオーリンズ)
    • 5月 RC28 Spring Meeting (パリ)
    • 6月 日本人口学会(名古屋)
    • 6月 ISA World Congress(メルボルン)
    • 7月 READI conference(東京)
    • 8月 RC28 Summer Meeting(アナーバー)
    • 8月 ASA(フィラデルフィア)
    • 9月 日本家族社会学会(神戸)
    • 9月 日本教育社会学会(弘前)
  • トーク
    • 1月 東京大学(zoom)
    • 3月 ミシガン大学
  • ティーチング
    • 6月 都内某私立大学(留学生向けのサマーセッションで4回ほど講義)
    • 6月 プリンストン大学サマースクール(東京で開催されるセミナーでゲスト講義)
  • その他サービス
    • Graduate Student Government Representative(就職する友人に代わって大学院自治会への社会学部の代表業務)
    • READI Student/postdoc Seminar Co-organizer (東アジアにおける社会階層と人口に関するオンラインセミナーのオーガナイズ)
    • Princeton Stratification Seminar Co-organizer(社会階層論セミナーのオーガナイズ)
    • PAA/ASA Japan Dinner Co-organizer
      • アメリカの日本研究者と日本の研究者をつなぐことはライフワークにしていきたいので、その一環です。やりがいは感じます。
    • アメリカの社会学博士課程に出願できる人のリクルート
      • エージェント業務をやっているわけではないのですが、最近はポテンシャルがあると思った人には「アメリカの大学院のほうが向いていると思うので検討してみないか」とはっきり言うことにしました。自分の判断は間違っているかもしれませんが、自分なりにその人のキャリアを考えて少し積極的な態度に変わっています(以前は、そこまで行ったほうがよいとまでは言ってませんでした)
  • 査読
    • 2020年までは2本くらいだったのですが、2021年は5本、2022年は6本担当して、結構負担に感じ始めました。今年は年はじめの1週間ですでに2つ依頼が来ました(どちらも査読することにしました)。基本的に自分が将来出してもいいと思える雑誌の依頼しか受けないようにしていますが、それでも負担感はあります。昔はただの義務感でやっていたのですが、最近は色々忙しくてゆっくり論文を読む時間も取れなくなってきているので、こういう拘束力のある手段でインプットできる機会は、それなりにありがたいと思っています。多分、今年は10本くらいやるのかなという気がしています。