June 21, 2016

学歴同類婚の増加と世帯所得不平等化の関係

文献:Breen, Richard, and Leire Salazar. 2011. “Educational Assortative Mating and Earnings Inequality in the United States.” American Journal of Sociology 117(3): 808–43.

要約

学歴同類婚の増加が世帯間不平等を拡大するという説が、不平等に影響を与える人口学的要因に着目する近年の研究によって指摘されている(Blossfeld and Timm 2003, Esping-Andersen 2009, Schwartz and Mare 2005
前提① 女性の労働参加が増加している。
前提② 家族システムが男性稼ぎ主モデルから共稼ぎモデルに移行する。

こうした懸念の一方で、経験的な知見は乏しい。この論文では、非同類的な結合の効果を見るために、選択的結婚(Assortative mating)を同類婚以外にも拡張した分析を行う。
    同類婚以外のカップルにも着目
    結婚と同棲のパターンの変化に着目

世帯間不平等生成における人口学的要因の役割
    家族構造:基本的にひとり親世帯の増加などの家族形態の変化は不平等化を促す
    女性の労働参加:国際比較を踏まえても、世帯所得の分布を平等化する。
    選別(sorting-夫婦の収入の相関:アメリカにおいて、世帯収入の不平等化には夫婦の収入の相関の上昇が寄与しているとされる。
    選別(sorting-学歴同類婚:子どもがいる二人親世帯では効果なし。

学歴同類婚と不平等の関係を考察する際の留意点
    不平等はグループ内とグループ間に分けられるとしているが、ここではむしろ「あるグループが増える(減る)ことが不平等に寄与する」ことを検証するためには、「そのグループがほかのグループよりも高い(低い)収入を持つ」という平均の水準と(=between)、「そのグループ内で収入の分散が大きいか小さいか」という分散の水準(=within)に分けて議論する必要があるという考えた方がわかりやすい。
    仮に所得の不平等化が学歴間の格差と関連しているのであれば、(学歴で見た)世帯類型間の不平等は増すと考えられるし、学歴内の不平等が増しているとすれば、世帯類型内の不平等が増していると考えられる。
    高等教育へのアクセスの拡大、特に女性の高学歴化が20世紀後半の大きな変化だったが、こうした変化が選択的結婚を通じてどのように不平等に影響するかを予測するのは簡単ではない。
    高学歴女性が増えると高学歴同類婚が増え不平等が増すと期待されるが、一方で低学歴女性が減るということは低階層の同類婚が減少することを意味する。
    シングルマザーの増加は不平等に寄与することが知られているが、所得を等価した場合、一般的に言えば二人同居の場合は単身よりも高い等価所得を得る。すなわち、平均以下の所得のカップルが離婚した場合、不平等化に寄与するが、平均以上のカップルの離婚や独身者は不平等を減少させる。

分析方法:要因分解(decomposition
学歴はSchwartz and Mare (2005)に従った5分類にひとり親を加えた6*6-135通り。
家長の学歴と(もしいれば)配偶者の学歴のタイプで分けた35類型のグループのbetweenwithinの不平等に分解。

指標:世帯人数で等価した夫婦の課税前労働所得の合計(感応分析では世帯年収などを考慮)※無収入者はa small positive constantを加えることでTheil係数の分析に用いる。また、トップコーディングの問題から97thパーセンタイル以上の収入の世帯については削除。対象は世帯主が20歳から64歳の世帯。

分析結果
Theil係数の推移は二時点間で不平等化のトレンドを示しているが、比率(composition)のみの変化を認めた反実仮想的な分析の結果は、不平等化よりもむしろ平等化を示唆しており、between, within双方で平等化傾向が見られることがわかった。この結果から、筆者らはそもそも選択的結婚が不平等に対して影響を与えるかを、ランダムマッチングから完全一致までの両極の間で不平等度がどれほど変わるかを検討している(図6)。分析結果は、完全同類婚の状態でも不平等度はそこまで深刻なものにはならないことを示している。次に、夫婦の収入の相関を学歴結合の増加に分解するテーブルを用意した分析の結果が示されるが、ここでも学歴同類婚の効果は周辺度数、すなわち夫婦それぞれの学歴分布の変化によって説明されており、同質性のパターンの変化は効果として見られない。最後の分析では年齢幅を改めたり、人種を限定したり、世帯年収を使用したりなどのロバストネスをチェックしている。

今後の展開
不平等→同類婚の可能性(すでにSchwartzが検討している)
高学歴者の中が多様化している可能性。

その他
withinTのみ変化させると観察値よりも不平等が増す→二時点間でほぼ例外なくどのグループでも不平等が拡大しているため。
グループごとの平均所得のみ変化→withinが若干変化しているのは、withinの構成要素にxjが含まれているため。Betweenが変化しているのはグループ間で平均所得の伸びに差があるため。
平均とグループごとのTheilを変えず、比率のみを2001-5に合わせるとむしろ不平等度は減少する。同様に、2001-5の観察値の比率を1970年に合わせると不平等は増す。
比率を部分的に変更する:カップルの比率のみ、同類婚のみ、周辺度数のみの変化、夫婦の連関のみの変化、いずれも1975-79の観察値よりも不平等度は低くなる。
Deming-Stephan (1940)のアルゴリズムを使うと周辺度数のみの変化と夫婦の連関のみの変化を表現できると書いてあるが(注 16-17)、この辺りよくわからない。。。
学歴同類婚の増加の効果はトップ層のみにきいている可能性がある→ランダムマッチングと同類婚が最大に生じる仮想的な分布を作成し、その中間を両者の重み付けで表現する。両極の不平等度でも値は0.05程度しか変わらず、学歴同類婚の程度自体がそもそも不平等に寄与しないことを示唆する。
近年の研究を踏まえ、学歴ではなく所得の選別を見てみる。各学歴の平均所得からなる5*5のクロス表から作成した所得の相関から、同類婚の効果は不平等を1/4程度しか説明せず、かつその変化が不平等化に与える影響も微々たるものである。

P.833の後ろから九行目あたりからの文章がよく理解できない。

コメント(気になる箇所)
1.     Assortative matingHomogamyの区分(809, l.4)。
多くの同類婚研究は両者を区別しておらず、せいぜい前者の方がやや広義の結婚パターンのことを意味するくらいにとどめている。ただし、Assort(分類)の意味を重視すると、homogamy/heterogamyなどはある特徴を持ったカップルの組み合わせという状態を刺すのに対して、Assortativeというのは何らかの特徴を「選別」したというニュアンスがある。ひとまず、ここではAssortative matingを「選択的結婚」としておく。

2.     選択的結婚の分析なのだろうか?
2を見る限り、単身世帯は2時点間で3割から4割に上昇しており、パートナーシップを持っている世帯は6割にとどまる。論文では単身世帯に子どもの有無による区分けをしていないため、このグループには「未婚でフルタイム就労」と「ひとり親でパートタイム就労」の両方が含まれている。図3を見る限り、女性単身者の増加に寄与しているのは高学歴者であることを踏まえると、p.822で述べられているように単身者の高学歴化はある程度労働市場で十分な収入を得ていると考えられるかもしれない。不平等化の要因分解の結果、withinの不平等の寄与が大きく、特に単身者内の不平等が大きいというのは上記の単身者の定義からすれば妥当な結論で、単身世帯をもう少し精緻に区分してもよかったかもしれない。
また、そもそも論として、不平等化に寄与しているのは単身者の増加だと言われたところで、それ選択的結婚の分析なの?と聞きたくなる気持ちも残る(要因分解のところでカップルのみの分布を変化させるなどしているのでよいのかもしれないが、いずれにしろひとり親世帯を入れる積極的な理由を述べている箇所を見つけられなかったのでやや消化不良)。

3.     分析結果の解釈
グループ内不平等が比較的小さい集団(大卒)が増加したことで反実仮想状態ではwithinが減少するのは理解できるが、平均所得の低い低学歴同類婚が減少しているとしても、betweenまで減少するのはやや疑問(平均的に見て所得の多い高学歴層が増え、所得の低い女性ひとり親世帯が増えているはずなので)。結論部(p.838)でもwithinの寄与については説明しているものの、betweenに関しては説明がない。

4.     分析結果の含意
 (高)学歴同類婚の比率の増加が世帯の不平等化には関係がないという知見は一見すると意外なように聞こえる。恐らく、結婚してすぐのカップルのみを対象として、図6のように、ランダムマッチングから完全一致までのバリエーションの中で不平等度がどのように変わるかを見れば、ある程度は、ばらつきが出てくるのかもしれない。本論文冒頭で引用されているBlossfeld and Timmのような予想も、こうした発想の延長として考えることができるのではないか。この論文の手法は反実仮想的としているが、実際には(他の要素をコントロールした上で)比率の変化を見ているだけであり、本論文でも主張されているように、本質的には学歴組み合わせ別で見た世帯所得というのは、学歴と関連のある形で個人に所得が配分され、かつ配偶者(及び家庭環境)の特性に個人の所得が影響を受けるというプロセスから成り立つ(p.831)。したがって、純粋に高学歴同士が結びつくことで収入が2倍になるのではなく、例えば一方が就労調整をするなどした結果が世帯所得であると考えるべきだろう。このように、一時点の分布を見ていては、(1)夫婦の組み合わせが生じた時点の分布と(2)その後のライフコースで夫婦の所得構成が変化するという要素を区別できない。
 学歴の組み合わせ比の変化については不平等化への効果なしという結論になったが、833ページの分析で所得の相関が高まっていること自体は認めている。学歴と所得が密接な関連にあるという想定のもと、学歴同類婚と不平等の議論は出発しているが、論文が示唆するのは、学歴とは関連しない別の要素によって所得のマッチングが増加しているというものである。
 以上から、今後の家族形成と不平等の議論は(少なくともアメリカでは)、同質性の基準が夫婦の学歴組み合わせから所得の相関に移っていくと考えられる。そして、所得の相関に視点を移すことで、先のような(1)結婚時点の組み合わせ(ソーティング)と(2)結婚後のライフコースにおける(女性の)労働参加による所得構成の変化の二つに要因を分けることが今後の研究では重要になってくるのではないか。経済学では所得の選択的結婚への注目はすでになされているが、社会学でもつい最近になって上記のような問題意識の研究が登場しており、夫婦の収入の相関の上昇は結婚時点のソーティングではなく結婚後の就労の効果が大きいという(Gonalons-Pons and Schwartz 2015)。
 要するに、所得は学歴同類婚以外にも関連のある要因が多く、効果を見たい時のアウトカムとしては適切ではないかもしれない。学歴同類婚と不平等・階層性の関連を議論する際には、単純に学歴同類婚の趨勢をもって開放性を議論する、あるいは視点を次世代に向け、経済的な帰結よりも世代間における社会化などの効果に着目しても良いかもしれない。


文献
Pons, Pilar Goñalons, and Christine R Schwartz. 2015. “Trends in Economic Homogamy: Changes in Assortative Mating or the Division of Paid Labor in Marriage.” CDE Working Paper, University of Wisconsin-Madison: 1–59.




雑感:ロバストネスのチェックや仮想分布による同類婚の効果測定など、単純に要因分解をしている以外にも、問いに応えようとする方法をいくつも試みていて非常に質の高い論文だと感じた。

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