November 14, 2018

11月13日(DemSem)

今日は気持ちよく目覚めた。しかし昼ごはんは再びほとんど食べず。

10時からはdemsemのスピーカーのFabianさんとのミーティング。彼とランチしたい院生が多くて、特別に朝に時間を作ってくれた。私を含め院生は4人。彼らの研究関心を聞きながら、こういうデータがあるからこういう分析をしてみたらどう?みたいなsuggestiveなコメントを多くもらった。彼は階層論の中でもwealthの分析で有名だけど、それ以外の分野についても詳しくて、聡明さを強く感じた。

セミナーの報告も非常に面白かった。普段のdemsemの2倍くらいの人が来て、関心の高さを窺わせる。階層論では回顧的に親の地位を尋ねるのではなく、前向きにデータを集めて、ある世代(G1)の子どもやその孫(G2, G3)の達成を見る研究が流行っている。こうすることで、階層によって異なる出生力の影響を見ることができるのが大きな利点で、社会階層論と人口学を架橋する研究として潜在的な注目は大きい。

今回の報告は、ミシガン大学が60年代から実施しているパネル調査PSIDを利用して、最初の対象者を追跡して、彼らの孫世代に至る貧困の連鎖を捉えるものだった。まだ途中の研究ということだけど、会場の盛り上がりが半端なかった。

良いトークとは、賛否両論含めて、聴衆の手を自然に上げさせるようなものを指すと考えている。面白いトークは、終了後もオフィスに戻った人同士で面白かったね、あそこは納得いかなかったと、様々な感情を呼び起こすものだと、いくつかのセミナーをみて考えるようになった。いつか、自分もこういう人の感情に波を立てられるような報告ができればいいなと思った。

賛否両論といったが、盛り上がったのは何もポジティブなコメントが多かったからではない。アメリカの文脈では貧困研究はraceによる貧困の差が重要になってくる。Fabianさんもそうした研究を踏まえて、white/blackに分けて出生力と貧困の再生産を検討していたのだが、その中で、blackのグループの出生力が高いはずだという議論になり(はずだ、というのはPSIDでは前向きに子どもたちを追跡しているがattritionが生じていて、それがランダムには生じていない、具体的には貧困に陥りやすい世帯で抜けが大きいので、blackを含め出生力をimputeする必要があった)。

そういう議論の中で、シニアの先生が若干決めつけ気味にblackの出生力について予測するのにこうしたほうがいいというアドバイスをしていたのだが、若干説教気味のコメントで、会場の空気も、あーこれ曇ってきたぞ、、、という感じになった後に、3年生の先輩が、アメリカにおけるblackのreproductionには特殊な(政策的な)歴史があるので、パブリケーションの際にはそういう側面に言及しないと誤解を生みかねないという指摘をしていた。彼女は人口学の中でも避妊行動をメインに研究しているが、単なるfeminist empiricismに終わるのではなく近年のジェンダー理論の流れも踏まえて、既存の人口学の研究を批判的に検討している。こういう人が次世代型の研究者になるのだなと思った。

その後、統計、及びプロセミナー。内容はメンタルヘルスで、UHCの人が来てくれてストレスを溜めない方法や、周りの人が何か不調をきたしているときにどう声をかければ良いのか、あるいは不調をきたしているとき自分にどう語りかければ良いかという点などをアドバイスしてもらった。

これも話すと長くなるが、アメリカに来て学生のメンタルヘルスに関する問題は構造的に生じていて、学生は労働者ではなく一人の人間で、研究の良し悪しとは別に一人の人間として尊重しなくてはいけないという原則が広く共有されていることを強く感じる。

もちろん、実際は業績を巡って違いをライバル視する側面が全くないとは言わない。しかし、少なくとも社会学部ではできる限り教員と学生間、あるいは学生同士の風通しをよくしようという雰囲気を感じる。

大学院生というのは、自分の研究が今後どう展開するかの確信が持てるまで時間がかかり、金銭的にも不安定で、来年のポジションが常に約束されているとは限らず、就職も熾烈で、研究は個人作業の面もあり、ときには研究について「話さないこと」によって利益を得ることもできてしまうという意味で、ストレスフルな環境であり、意識的に変えていかなければ悪循環に陥ってしまう。

メンタルに不調をきたした人は、その人の心が弱いからだと考えるのではなく、一つの症状として捉えて(そうした不調を病として見做すこと自体にも問題性は含まれるだろうが)、できるだけ制度としてサポートしようとしているのは、個人的にはとても良いことだなと考えている。

帰りに2ヶ月ぶりの散髪。この2ヶ月で色々と学んだ。2ヶ月前は右も左もわからなかったなと、振り返る機会となった。


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