April 26, 2015

多様性とソーシャル・キャピタルの関係

 近年、エスニシティの多様性がコミュニティの結束(Community cohesion)に対してどのような影響を与えるかが検討されている。従来の議論では、ある集団内で自分と異なるバックグラウンドを持つ他者と交流(インタラクション)することで、集団外にもその効果が波及するという接触仮説と近隣環境において人種の多様性が増すことが信頼の低下を招くという紛争仮説が対立する形で存在している(Stolle, Soroka, and Johnston 2008)。パットナム(R. D. Putnam)はソーシャル・キャピタルにおけるボンディングとブリッジングの区別をこの分野に応用して、接触仮説からは多様性(正確には異なるバックグラウンドの人とのインタラクション)がin-groupout-groupの区別を失くすという想定が導け、紛争仮説からはin-group内のボンディングSCが醸成されるという想定が導かれる。パットナムによれば、先行研究の知見は紛争仮説を支持するものだが、これらの研究はout-groupに対する姿勢のみをたずね、in-groupへの姿勢はそれに反転するという暗黙の前提を置いていたとする。パットナムはconstrict theory、すなわちエスニシティの多様性はin-groupout-group双方の信頼を衰退させるという仮説を提示し、実証データを用いてこれが支持できると論ずる(Putnam 2007)。パットナムの論文は、仮説レベルではコンタクトから信頼が形成されるとしているものの、分析のレベルでは、信頼と多様性のみの関係を扱っており、接触仮説の想定を無視していると言わざるを得ない。他にも、均質性の信頼に対するポジティブな効果は確認されているものの、これは教育の与える効果より小さく、変数の重要性に関する議論を省略しているため説得力に欠ける。また、エスニシティの多様性とcivic engamgementのネガティブな関係についても、先行研究同士で意見が対立する箇所を無視しているなど、この分析結果だけから、経験的にこの命題を支持することは難しい。

 それでも、数多くの経験的研究がこのパットナム命題(Putnam Thesis)を検討している。分析では、コミュニティ内における人種の多様性と、実際に異なる人種的背景を持つ人とのインタラクションの二つの側面の違いに注意を向ける必要がある。Stolle, Soroka, and Johnston (2008)では、既存のデータからは都市レベルでのコンテクスト効果(人種の多様性)しか測れず、地区レベルでのコンテクスト効果、及びインタラクションの側面を見逃しているという説明が存在する。この論文ではセンサスデータを用いて地区レベルの多様性を測ることに成功している。分析の結果、米加両方のデータで回答者がマイノリティの場合に信頼が低くなること、及び対象者の周りの人種の多様性は両国、特にカナダのデータで信頼に対してネガティブに働くこと、カナダのみにおいてインタラクションがポジティブな効果を持つことが分かった。個人レベルのネットワークを調査したアメリカデータの分析(対象はマジョリティのみ)から、地区レベルでの多様性は個人のネットワークにおける多様性の変数を投入することで有意ではなくなる。また、近隣の多様性と近隣との会話が交互作用を持つことが分かり、インタラクションを持たない人は、近隣の人種の多様性は信頼に対してマイナスに働く一方、近隣の人と話す人にとっては人種の多様性はマイナスには働かないことが分かった。

 Eurobarometerのデータを用いたGesthuizen, van der Meer, and Scheepers (2009)では、パットナムの議論は移民が増加するという時間的な側面を省略しているとし、通時的な移民の流入を仮説に加えている。この他、先行研究の知見から、経済的な不平等、社会保障、民主主義の歴史とSCの関係について仮説を立てている。分析の結果、エスニシティの多様性指標はSCに対してネガティブな影響を持たず、その代わりに経済的な不平等と民主主義の歴史が各国のSCの違いを説明するとしている。Boyas and Sharpe (2010)では、人種間の信頼関係について注目する。従属変数には、白人、アフリカ系、アジア系、そしてラテン(ヒスパニック)系の四つのエスニシティそれぞれへの信頼を尋ねた質問が合成されて用いられ、独立変数には個人の社会経済的な属性の他、調査の対象となったアフリカ系、ヒスパニック系、そして白人の三つのエスニシティがカテゴリとして採用されている。分析の結果、ラテン系が最もエスニシティへの信頼が低く、いちばん高いのは白人だった。全体サンプルにおける重回帰分析では、エスニシティと教育の効果が最も大きく、他に差別の経験、収入、居住期間が有意なものとして続いた。続いて、サンプルを三つのエスニシティに分けた分析では、ラテン系で収入が、白人で教育と差別の経験、そして居住期間が効果を持つ。アフリカ系に関しては教育、差別の経験、居住期間が5%水準で有意なことが分かっている。エスニシティ間で信頼を規定する要因が異なることを示唆している。Fieldhouse and Cutts (2010)も米英のデータの比較を通じて、エスニシティ間における人種の多様性と信頼の関係の違いについて考察している。紛争仮説と接触仮説に加えて、筆者らは多様性は白人のSC(信頼と社会参加)醸成にマイナスに働く、及びマイノリティグループにおいてSCと多様性の交互作用が見られるという仮説を設定した。交互作用に関しては、信頼に関してはイギリスのデータからは概ね仮説を支持する結果が導かれた。ただしアメリカデータに関しても傾向としては白人においては信頼と多様性のネガティブな関係、そしてそれがマイノリティには当てはまらないことが分かっている。社会参加に関しては両国で白人ではなくマイノリティBlack britishにおける多様性とのネガティブな関係が見られるが、アメリカに関しては近隣レベルの変数を投入することで相殺され、交互作用の仮説はイギリスのデータで支持された。

 人種の多様性と関連する居住の分離 (segregation)が一般的信頼を低下させるものだと主張する研究も存在する。Uslaner (2011)ではアメリカのデータと、これに比べればsegregationが起こっていないと考えられるイギリスのデータを用いて比較分析をする。多様性は全回答者をサンプルにした場合及び、白人の時に信頼に対してマイナスに働く。さらに、segregationと多様性には交互作用が確認され、多様性があり統合されているとに比べ、ただ統合されている都市に置ける信頼は低くなることが分かった。ただし、対象を全回答者ではなく特定のエスニシティにした時に効果は消え、さらに交互作用項同士の多重共線性もあるためだとされる。

 Porte and Vickstrom (2011)では、パットナムが主張したエスニシティの多様性とSCのネガティブな関係について因果的な問題から出発して批判的な検討をしている。まず、SCとその結果とパットナムが主張している5つの変数の関係が検討され、それらの一部が見せかけの相関であることが示唆される。統制変数を設けた分析から、テストスコア、貧困率、一人親の世帯率に対してSCは効果を持たず、経済的不平等のみが因果的に見せかせではないことが示唆されている。特に、貧困率のような問題に対してはSCではなく経済的不平等のような構造的な変数の方が影響力を持つという主張は説得的だ。次に、州レベルのSCを従属変数にした分析から、経済的不平等は有意な値を示さず、その代わりに大学生の比率がプラスに、黒人の割合がマイナスに、スカンジナビア系移民の割合がプラスに働くことが分かった。特に最後の箇所は移民という歴史的な変遷の詳細を見ていくとasociational lifeの度合いに違いがあることを示唆している。次に、ポルテスらはパットナムのエスニシティの多様性とSCの関係について、経験的な証拠に乏しいこと、さらに多様性ではなく、コミュニティの構造的な不平等やsegregationSCに影響を与えていると見るべきだとする。最後に、ポルテスらは、デュルケムの有機的連帯、機械的連帯の違いとコミュニタリアニズムの有無から4つのセルを作り出し、パットナムらが理想とするコミュニタリア二スティックな社会は、デュルケムが機械的連帯の概念で説明したような、均質的で誰もがお互いを見知っているような伝統社会に近いことを示唆する。筆者らは分業と個人主義が進んだとしても、それらをまとめあげるようなinstitutionが存在する社会では有機的連帯が成り立つことを主張し、パットナムの主張を相対化している。

 Lawrence (2013a)では、エスニシティの多様性が人種間への態度を悪化させるという主張に対して提出された接触仮説と紛争仮説の検討を行っている。筆者は分析から、多様性の増加は二つの仮説が想定した事態をともに起こす可能性を示唆する。たしかに、多様性の増加は人種の違いを尊重するか、異なるバックグラウンドのものと上手くやって行けるかなどの意見に対してネガティブに働き、コミュニティ内の非白人の比率が上がるにつれその効果も大きくなるがが、これは異なるエスニシティとつながりを持たないものだけであるという。個人のコンタクトがコミュニティの多様性がもたらすネガティブな側面を減少させるが、コミュニティが構造的な不平等にさらされている場合、両者の差は大きくなる。構造的な不平等がないコミュニティの場合、非白人の割合が増加してもコンタクトの有無が持つ違いは大きくないが、不平等がある場合には、脅威仮説が成立することが示唆されている。また、Lawrence (2013b)では、これまでの先行研究がattitudinalSCに限った、しかもそれが近隣に対するものに限っていたことを批判する。その上で、分析では社会ネットワークという行動的な側面を追加し、(1)多様性の増加は社会的ネットワークにも影響を与えるか(2)多様性の増加は社会ネットワーク全体か、それとも近隣のネットワークを衰退させるか、以上の二つを検討している。分析の結果、多様性は近隣レベルでの信頼とネットワークを衰退させるが、個人のネットワーク全体には影響を及ぼさない。人種が多様なコミュニティに住むものはネットワークのサイズは均質的なコミュニティと変わらないが、近隣を中心としたネットワークを持たないということだ。ただし、これは個人の移動する能力に依存していることが示唆され、多様性のある地域にいる高齢者は広範なネットワークを構築しづらいことが指摘される。


Fieldhouse, E., and D. Cutts. 2010. “Does Diversity Damage Social Capital? a Comparative Study of Neighbourhood Diversity and Social Capital in the US and Britain.” Canadian Journal of Political Science 43(2):289–318.
Putnam, R. D. 2007. “E Pluribus Unum: Diversity and Community in the Twenty‐First Century the 2006 Johan Skytte Prize Lecture.” Scandinavian Political Studies 30(2):137–74.
Stolle, D., S. Soroka, and R. Johnston. 2008. “When Does Diversity Erode Trust? Neighborhood Diversity, Interpersonal Trust and the Mediating Effect of Social Interactions.” Political Studies 56(1):57–75.
Uslaner, E. M. 2011. “Trust, Diversity, and Segregation in the United States and the United Kingdom1.” Comparative Sociology 10(2):221–47.
Portes, A., & Vickstrom, E. 2011. Diversity, social capital, and cohesion. Annual Review of Sociology, 37, 461-479.
Laurence, J. (2013a). Reconciling the contact and threat hypotheses: does ethnic diversity strengthen or weaken community inter-ethnic relations?. Ethnic and Racial Studies, (ahead-of-print), 1-22.
Laurence, J. (2013b). “Hunkering Down or Hunkering Away?” The Effect of Community Ethnic Diversity on Residents' Social Networks. Journal of Elections, Public Opinion & Parties, 23(3), 255-278.
Gesthuizen, M., T. van der Meer, and P. Scheepers. 2009. “Ethnic Diversity and Social Capital in Europe: Tests of Putnam's Thesis in European Countries.” Scandinavian Political Studies 32(2):121–42.

Boyas, J., and T. L. Sharpe. 2010. “Racial and Ethnic Determinants of Interracial and Ethnic Trust.” Journal of Human Behavior in the Social Environment 20(5):618–36.

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