July 23, 2014

ISAの感想

 8日間、ISAが4年に一度開くWCS(World Congress of Sociology)に参加してきました。後半になるに従ってセッションを聴講しはじめましたが、その簡単な感想です。

 今回は三つの視点から考えていきたいと思います。それらは多様性(diversity)、方法(methodology)、科学(science)です。これらは相互に関連しています。

 まず、多様性について。ISAは多様性があると聞いていましたが、発表を聞いて、これには二種類存在すると思いました。一つが社会や文化の多様性で、これは社会科学の国際学会なので、ある程度想像できることです。セッションも一国に絞るものよりも比較をするものが目立ちました。国際学会の特徴の一つと言えるでしょう。問題となるのはもう一つの方で、クオリティのばらつきです。聴講した発表の中には、方法論的にせめていくと学部生でも何個も批判できてしまう点がある発表も少なくありませんでした。例えば理論先行で調査を設計したのはいいものの、予算の制約もあってウェブ調査にしてしまったために、セレクションバイアスや重要な社会的属性変数を無視した発表や、インドの大学生600人にジェンダー意識を聞いてみたなんていう記述的な調査もあり、アナリティカルな分科会では批判される発表は珍しくありませんでした。

 最初はこれで国際学会なのかと驚きました。しかし、それは一面では、彼らの対象国では調査が難しい,データがないという制約の結果として生じているとも解釈ができます。問題は、文化的な多様性がクオリティ的な多様性と無関係とはいえない点にあると思います。方法的には北米や西欧、東アジアと行った国々のデータの方が洗練されているのかもしれないのですが、クオリティに注目してばかりいると地域的な多様性に不寛容になってしまう危険性を感じます。この関係を個人レベルでどのように折り合いを付けるのかというのも重要ですが、今後の展開を考えると次にあげる方法の側面を検討した方が良いと思いました。

 二番目の方法について。この学会を通じて、上記の発表のクオリティの部分の多くは、その論文がとった方法が手続き的にしっかりしていることによると感じました。いくら発想や仮説が面白くても、それを実証するようなデータと適切な方法が無い場合,それは報告者の頭の中の想像と言われても仕方ないと思います。私は地域的な多様性を保ちつつ、それらを包摂した高度な理論化を志向するためには、方法の洗練が必要だと強く思いました。社会学の場合、理論よりも現実に生じている問題から研究がスタートしていることも少なくないので、各国の社会学教育において方法に対する指導をインテンシブにおこなってほしいと思いました。ある程度スタンダードな方法を身につければ、それは英語と並ぶ共通言語に一つになり、研究の意義や主張の妥当性が伝わりやすくなると思います。

 三つ目が科学です。先のような方法論的に未発達な研究には科学性が認められないと思いました。何をもって科学(的)かについては議論があると思いますが、僕はシンプルに、ある仮説の検証・反証を通じて一つの真理に近づいていこうとするプロセスを考えています。方法が参加者に共有されて、それをもとに実証がされていけば、一つの強固な科学的知見を形成していくことが期待できます。しかし、上記のような「問題があるのでひとまずやってみた」という調査の類いはこの条件を満たすことが難しいと思いました。だからといって、彼らの研究が役に立たないと考えるわけではありません。そうした探索的な調査も長いスパンで見れば学問の発展に寄与すると考えています。しかし、忘れてならないのは、方法についてマスターするのと平行して、自らの探索的な調査が既存の研究や理論との関係の中で、どのように位置づけられるかについて考えを巡らすことだと思います。その考慮の上で検証的でない調査を発表するのは大丈夫なのですが、発表の中にはそれが科学的な知見の形成に寄与するというよりも、自分の関心のあることを解説するだけのものも目立ちました。

 この三つの軸から、RCごとの性格も見えてきます。数あるRCの中でも最も古い歴史を持つと思われるRC28(Social Stratification)は科学的知見に寄与しようとする、方法的に発達した発表が多かったですが、その一方で多様性は他のRCに比べると無かったように思われます。RC28は外部の者から見ると、非常にインテンシブで研究関心の近い凝集性の高い集団であるように見えますが、彼らの多くはアメリカやイギリスで学位を取った計量的な手法をとる社会学者で、彼らの関心はアメリカ、ヨーロッパ、東アジア、その他ブラジルなどの成長国に限られていると思いました(さらに言えば、そうした国々の国際比較に関心のある人たち)。一方で、家族研究のRC06は様々な国からの参加者によって構成される多様な分科会でしたが、方法的にはばらつきが多く、理論的な関心はほとんどなかったように思われました。個人的にはこうしたRCごとの特徴も一長一短だと思うので、今後ISAに関わる場合は性格の異なる二つ以上のRCにコミットしようと思いました。

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