ロンドンのLSEで3日間にわたって行われたRC28の学会に参加してきました。対面での参加は、これが3度目(2018年のソウル、2019年のプリンストン)、昨年あったオンラインのものも含めると4度目になります。イギリス開催だったこともあり、今回はヨーロッパからの参加が多く、懐かしい再会も多数でした。いくつか学会に参加して思った感想をぽつぽつ書いておきます。
まず、コロナ前から起こっていたことではありますが、registry dataを使った分析が多かったです。社会学の階層研究はヨーロッパの研究者が比較的強い分野でもあり、もともと北欧の研究者の層は厚かったのですが、ビッグデータの波に乗って北欧の大学にいる研究者たちは基本registry dataを使って興味深い問いを検証していて、データのサイズ的には太刀打ちできないところがあります。今回で言うと、例えばデンマークの図書館の全履歴をとってきて、どのような本を借りたかを通じて文化資本を測定するといった研究がユニークでした。また、北欧以外でもオランダのtwin registry dataを使ったゲノムの分析や、イギリスに居住する外国籍の高所得者(non-doms)の税務データを使った富の分析など、いくつも面白い報告がありました。調査ベースでも、PSIDを使って親や祖父母だけではなく親族全てをclanと見做して、子ども世代の教育達成に与える影響を見てみるといった研究などがあり、この手の拡張路線と近しいところがあるかもしれません。
データの革命で言えば、20世紀前半のイングランド・ウェールズの国勢調査をリンクして社会移動を見るといった、歴史的アプローチを取る研究もちらほらありました。この手のビックデータ系の研究は社会階層研究でもかなり増えてきています。因果推論・機械学習などと合わせて、第五世代の社会階層研究は既存の研究パラダイムをデータサイエンスと一緒に拡張していくことになると予測する報告もありました。
こうしたデータやメソッドで押されると、翻ってRC28が大切にしてきたコンテクストを重視する比較の視点が、ややないがしろにされる懸念もあります。cutting edgeな研究の多さでいうと、やはりPAAの方が多かった気がしますが、RC28のよさは比較の視点にあると思うので、そこは忘れないで欲しいところです。
この点に関連して、日本からの報告が少なかったことは心配の種になっています。直前までコロナの事情が読み通せなかったことや、大学がまだ渡航を認めていない例も多いようですが、日本の大学から参加してきた方は2人、報告は1つだけでした。アメリカの大学にいる私のような研究者の報告を合わせても、4つに過ぎなかったです。対面での学会が再開するなかで、日本の研究者が国際学会で報告しにくくなるような状況にならないことを願っています。
私が参加したセッションは、社会移動とメソッド(x2)、遺伝、富、子育て、高等教育とジェンダー、同類婚などでしたが、その中で言えば富のセッションは、うまく既存研究を批判的に検討しつつ、経験的な知見のelaboration/applicationが進んでいる印象を受けました。社会ゲノミクスは階層研究でそれなりにみられるようになってはいますが、この分野が10年後、富の研究と似たような状況になっているかどうかは気になるところです。
これに対して、子育ての研究は、既存研究のマイナーチェンジといったものが多く、あまり感心しませんでした。同類婚の研究もいくつか面白い研究はありましたが、似たような気配を感じます。Rob Mareが生み出した遺産を食い潰す前に、同類婚の新しい研究が求められている気がしています。所得格差に限らない格差の帰結に関する研究や、同類婚と社会移動の関係などが候補にはありますが、これまでの研究の認識を変えるような研究が出てくるまでには、まだ時間がかかる印象です。
以上の感想は、同じ学会に複数参加してみるからこそ出てくるものでもあります。RC28には国際学会ならではの多様性もありつつ、比較的問題意識が共有されている点がユニークです。だからこそ、何度も参加してみることでトレンドの変化を見出すことができます。また、何度も参加することで、ネットワークが広がるところもあるので、日本から「常連」となるような人を連れてくることが、自分が今後やっていかなくてはいけないことなのかなと考えるようになりました。