人口学だと、ジェンダー平等化が進むと女性が仕事と家庭のバランスを取りやすくなり、男性が育児に参加するようになることで、出生率が回復するという理論がある(個人的には、この話はスウェーデンを先進国が将来的に行き着く先と考えるreading history sideways の一種であり、新手の近代化論に見えるので少し懐疑的)。
ジェンダー平等と出生率の回復は別個に考える必要があると思うが、一挙両得の可能性を感じて、日本の政策担当者も重い腰を上げつつある。国家公務員の男性育休取得率の上昇などは、これまでの男性の育休取得の低さを考えると驚くばかりである。とはいえ、日本の多くの民間企業では、まだ転勤も多く、男性が仕事を休んで育児休暇を取るというのは、なかなか難しい。
これがなぜか、日本が変わっていくにはどうすればいいか、そうしたモチベーションで本を書いているのが、ハーバードのMary Brintonさんである。日本のジェンダー格差を議論するときに避けては通れない人物だが、昨日は彼女がインディアナ大学で講演をするので、話を聞いてきた。
同じトークは以前も聞いていたので、彼女の主張(日本は社会規範の影響が強く、会社で最初に育休を取ることはスティグマになってしまうので、国が率先して強制的に育休を取るような制度にしていくほかない)というのは、一理ありつつ、しかし現実的かどうかはわからないと思いながら聞いていた。いくつか興味深い質問があったので、メモしておく。
一つは一橋の小野先生が、Brintonさんのいう共働き・共育て社会の実現がnew equilibriumになるのかという質問をした。なぜなら、非正規や無職で仕事をセーブしている有配偶女性の幸福感は、正社員の有配偶女性よりも高いからだ。実際、専業主婦を希望する女性は一定数おり(それ自体はジェンダー不平等な労働市場を反映してのことだと思うが)、思考実験としては興味深い。次に(サークルの先輩で久しぶりに見た)長山さんが、結局のところ問題の根源は終身雇用をベースとした正社員と非正社員の差別的な雇用制度にあるのではないかと指摘した。これも重要な指摘だと思う。年功序列で会社の中のラダーを上がっていく正社員タイプの雇用は、キャリアを中断する可能性が高い女性には不利だからだ。いわゆるジョブ型・メンバーシップ型の議論とも繋がるが、仮に諸悪の根源だとしても、それが政策的に介入可能かは別問題になるだろう。
話を聞いていると、人口減少が危機感となってジェンダー平等が進んでいくシナリオが今後の日本で起こるのかもしれないと思った。つまり、理念的にジェンダー平等を推進しようとする動きよりも、必要性に駆られた結果、ジェンダー平等が進むというシナリオである。最初の話に戻ると、人口学の流行りの理論では、ジェンダー平等になるから出生率が回復する、という因果で考えていたが、むしろ先に来るのは人口の方なのではないか、つまり、労働力人口の減少に耐えられないポイントで企業や政府が重い腰を上げて、高学歴の女性が働きやすい環境に変わった結果、出生率も多少回復する、みたいなこ都が起こるのかもしれない。これはこれで楽観的な予測だと思うが。Demography as a source of resilienceという話、人口学者以外には受けは良くないかもしれないが、考えてみてもいいかもしれない。